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果たされた再会③

 翌朝、マリウスは、窓辺に立っていた。海霧が見る間に海へと吸い込まれて、けぶる街並みは姿を現していく。  色とりどりの屋根が明るく、復興した街並みは美しかった。  昨晩、蒸留酒を煽りすぎて二日酔いの目にそれらがまぶしく映る。  ノックもなくドアが開いたと思うと、入ってきたのはやはりリージュ公だった。ニヤニヤしている。 「昨日、エミーユをここへ寄越したんだが、良い夜を過ごせたか?」  しかし、マリウスの陰鬱な顔つきにリージュ公は首尾がうまくいかなかったことを知った。 「エミーユの奥さんは今も元気に生きているそうだが、奥さんとはうまくいっていないらしい」  マリウスはエミーユの顔つきを思い出した。  エミーユがグレン兵士のことを話す顔つきには情愛が浮かんでいた。今もエミーユがその人のことを大事に思っていることは間違いがない。しかし、「睦まじくとはいえない」と言っていた。  おそらくは、仲がこじれているのだ。何とかしてやりたい気持ちと、このまま引き裂かれたまでいれば良いという気持ちが複雑に絡まり、自分を無視しているエミーユへの恨みも沸き起こり、マリウスは悶々とするしかなかった。 「エミーユを大事にしないとは、いったい、どんな人だ。顔を見てみてみたいものだ」  リージュ公は目を丸めてマリウスを見ていたが、やがて、ぶはっと吹き出した。  更に上塗りになった従弟の勘違いに、笑いをこらえることができない。 「お前は自分のこととなると本当にポンコツだな」  マリウスはリージュ公に反論しようとしたが、できずに黙り込んだ。ポンコツの自覚はある。  もっとしっかりと立ち回れていたら、エミーユをさっさと探し出し、その手に取り戻していたはずだ。  リージュ公はひとしきり笑い終えると、マリウスの肩に手を置いた。 「俺なら、エミーユを奪い取ることを考えるがな」  マリウスは口をへの字にした。 「エミーユが嫌がることはできない」 (エミーユは名乗り出ることすらしないんだぞ。俺とのことをなかったことにしているんだ) 「嫌がるとは限らないだろう? 皇帝よ、自信を持て」  リージュ公の気楽な声にマリウスは口をへの字に結んだままだった。  何しろ草原では置いてけぼりにされたし、昨日も拒絶の意思がありありと見えた。  今のマリウスは皇帝だ。マリウスはそれを振りかざしてきたことはないつもりだし、身内兵士からはぞんざいに扱われているような気もするものの、それでも、周囲は勝手にこびへつらう。エミーユだって少しはなびいてくれてもいいのに、明確に拒絶の意思を表していた。  リージュ公は次第に俯いていくマリウスの肩をポンと叩いた。 「今日は、エレナ女王は城下で市井の暮らしを案内してくれるそうだ。それが済めば、我が兵団は隣国へ出発だ。エミーユとのことは、今日がラストチャンスだぞ」  ラストチャンスと言われても、マリウスには何をすればいいのかもわからなかった。

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