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果たされた再会④
馬車に揺られて、エミーユは蒼白な顔をしていた。その向かいには皇帝が座っている。
馬車の中は二人きりだ。
どういうわけか、午前のお茶会の予定が、急遽変更となり、皇帝一行に市井の生活を視察してもらうことになった。
王都に自宅を持つ使用人らに白羽の矢が立てられて、皇帝に側近らをそれぞれ自宅へ招くことになった。側近らの招かれ先が次々と割り振られていくなか、皇帝を招くことになったのはこともあろうかエミーユだった。
自分の家に帝国高官らを出迎えるとあって、任を背負った使用人らは、恐れ多くてかしこまるやら、光栄のあまりに素っ頓狂な声を出すやらだった。
「私の家に、グレンの高官をお迎えするですって。こんな光栄なことはない」
「私の両親には冥途の土産となりましょう……!」
しかし、エミーユは一人、真っ青になった。
(そんな……、どうして……?)
エミーユにとっては無情でしかない命令を放ったエレナ女王は、思いやりのこもる目でエミーユを見つめ返した。
実のところ、エレナ女王にもエミーユと皇帝とに横たわる事情に気づくものがあった。
皇帝はエミーユの名を持つ使用人を訊いてきたし、肩掛けの持ち主はエミーユだったし、何より、リベルは皇帝と同じ紫の目をしている。
これだけ揃えば、女王だって勘づく。
リベルは皇帝の子なのかもしれない、とまで行きついている。
そこで、エレナ女王は、一肌脱ぐことにした。
リベルと皇帝を会わせようというのだ。それに馬車の中で、皇帝とエミーユが二人きりになれる時間を作ってやることもできる。
エミーユにとっては迷惑千万だったが、反発すべくもない。
不服げな顔をしたままのエミーユに女王は言い放つ。
「従者たちを先んじて自宅に向かわせて、皇帝を出迎えるだけの準備を整えさせています。何も心配ありません。ただ、市民としての普段の生活をお見せすればいいのです」
「ですが、私の自宅など、陛下のお目汚しになるとしか思えません」
「これは命令です。受け入れなさい」
エミーユにはもう何も言い返せなかった。
馬車の中は重い空気が漂っていた。馬車の中で、エミーユは黙りがちだったし、皇帝もエミーユの皇帝への警戒に気づいているのか、チラチラと視線を向けてくるも、声をかけづらそうにしている。
だんだんとエミーユの自宅が近づいてくる。
(ああ、どうしよう、リベルを見られてしまう。この馬車、脱輪でもしてくれればいいのに)
エミーユの不安をよそに、馬車は予定時刻に自宅についた。
エミーユの住まいは商店の立ち並ぶ通りにある、花屋の二階だ。
馬車が止まればエミーユは先に馬車から駆け下りた。
「あ、あの、陛下のお目汚しになるものがないか、確かめてきます!」
見れば通りには、ずらりと従者たちが待ち構えており、そのなかにリベルの手を繋いで、こうべを下げる母親がいた。
ほっとすることに、母親は反対側の手に別の子どもの手を握っているし、周囲には何人もの親子連れがあった。
それらは近所に住む家族らで、あらかじめエミーユは自宅に早馬を走らせ、近隣の人を呼ぶように母親に頼んでいた。
(木を隠すなら森へ。子を隠すなら子らへ)
誰もが皇帝を迎えることに、喜びに沸き立つ顔をしていた。
エミーユは見知った女の子を抱き上げた。この国に多い茶目茶髪の可愛い子だ。
リベルの幼なじみでもある。女の子はエミーユに大人しく抱っこされる。女の子を抱いたまま、皇帝が馬車を降り立つのを待った。
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