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第2話
どうもあのハロウィンの辺りから仮装やシチュに弱くなったらしい。新たな性癖とでも言うべきか。
それはそれで楽しいこともあるのだが……。
しかし、仕事となれば話は別だ。俺は俺自身を見て欲しい。
(あの時調子に乗った自分が憎いっっ!!)
カメラを構えたままの柑柰詩雨 をちらっと見る。
(いや、もう、休憩中よ?)
それなのに、まだカシャカシャとシャッター音がする。完全に趣味モード全開だ。
ファインダー越しに、俺が見ているのに気づき、軽く片手をあげる。それでもカメラを下ろさない。
ふっと息と吐くと監督に頭を下げ、その場を離れた。相手の女優にも謝罪をする。彼女は、役のしおらしさとは裏腹のからっとした口調で「大丈夫、大丈夫」と言って笑った。
ここで取り敢えず休憩に入ったことに俺はほっとした。
いや、結局ただ先延ばしになっただけでやらざるを得ないのだが。
あのシーンのすぐ後にキスシーンがある――それを彼には見られたくなかった。
というか、それを平気で見ている、詩雨さんを見たくなかった。
(……嫉妬……とか、しなさそうだよな……)
俺は小さく溜息を吐 いた。
「お疲れ~~」
目の前の、にこやかに笑う綺麗な顔を見て、もう一度溜息を吐く。
(やっぱり……しないだろうなぁ、はぁ)
「どうした? 疲れたのか?」
片手が伸びてきて、ぽんぽんと頭を撫でられる。
「いえ」
「そうか?」
心配そうな顔をしたがそれは一瞬で、
「しかし……この衣装カッコいいよなぁ。めちゃハルに似合ってる」
めちゃくちゃ楽しげに俺を――主に俺の衣装を見ている。もちろん、誉めて貰っているのだから、嬉しくないこともないんだが。
「本当に良く似合ってますよ、ハルくん。僕もそういう衣装を着たかったなぁ」
詩雨さんの隣に立ってにこやかに笑う男。
そう。
さっきからこの男はずっと詩雨さんの隣にいて、楽しげに話している。
カイト・ウェーバー。
ウィーン生まれのハリウッド・スター。この映画の主演男優だ。
日本映画界ではまだまだひよっこの鎌田の映画に、二十六歳という若さでも人気を誇るカイトが、何故出演を承諾したか。
それは彼の父親と鎌田が友人であるかららしい。
そして――。
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