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第13話

 夏生は詩雨さんの学生時代からの友人だ。  俺たちのことは勿論知っているし、二人が再会して今の関係に至ったのも、夏生が諦めずに俺をモデルにさせようとしていたからだ。  いや、俺にとっての再会なのだが。  俺が聖愛(せいあ)学園の初等部に通っていた頃、詩雨さんは隣のカンナ音楽院に通っていた。カンナ音楽院の生徒は普通教科を聖愛学園で学ぶ。  詩雨さんは俺のことは知らなかった。俺が一方的に知っていただけだ。詩雨さんのピアノをこっそり聴いて、彼の姿をこっそり見ていた。それでも一度だけ顔を合わせたことがある。それはとても苦い思い出となり、俺の記憶から彼を消した。再び出逢うその時まで。 「まだ……。撮影終わってない。俺の出番は終わったけど」 「ああ、お話序盤で戦死する奴?」  俺の仕事の把握は全部知っているクセに、わざとそう訊いてくる。 「言うなよ。でも、それぐらいでないと、演技も大してしたことないのにボロが出る」 「いや、でも、ヴィジュアルはバッチリだね。スマホに詩雨から画像送られて来たけど、格好良かったよ」 「さんきゅ」  誉められてもいまいち元気が出ない。  あいつが来てからひと月が経った。  詩雨さんも忙しい。帰って来ない日もある。帰って来ても、軽いキスと、一緒に眠るだけの日々。家にいてもあいつと話していることのほうが多いくらいだ。 「くそっ。あいつぜったい詩雨さんのこと狙ってる。早くアメリカに帰れーっっ」 「ふーん」  意味ありげな相づちが聞こえてきた。 「なに?」 「いや、なんでも」 * *  更に一週間が過ぎた。  撮影もあと数日で終了する。 (終わったらさっさと帰ってくれよ)  久しぶりに明るい気分で帰宅する。  今日は事務所での打ち合わせとCitrusへの顔出しのみだったので、まだ陽も高い。こんな時間に自宅には誰もいないと思ったが、ガレージには車が二台とも置いてある。玄関の鍵もかかっていない。  最近は滅多にないが、店主がいればSTUDIO SHIUはオープンしている。その時には鍵は開けっ放しだ。 (あれ。詩雨さん帰ってるんだ)  明るい気分に拍車がかかる。  仕事なら一階スタジオか、二階の事務所にいる筈。中に入ると一階には誰もいない。明かりも点いていないが陽が射し込んでいて真っ暗ではない。  そのまま二階に上がる途中で、二人分の声。  一人は詩雨さん。もう一人は――。 (ちっ、あいつもいるのか)  心の中で舌打ちをする。 「――だから詩雨ちゃん、アメリカにおいでよ!」 (なんだって?!)

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