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第15話

 玄関灯は点いていたが鍵はかかっていた。それは防犯上当たり前のことなのに、今日に限っては拒絶されているように感じた。  鍵穴にも上手く入れられず、数秒もたつく。乱された気持ちは身体にも影響するらしい。 (くそっ)  馬鹿みたいにガチャガチャやってやっと中に入る。  音を立てないように階段を上がって行く。一階二階は真っ暗だ。三階は踊り場だけに小さな灯りがともっていた。 (詩雨さんはどっちの部屋にいるだろう) 『そんなことはない』そう思っているのに変な想像をしてしまう。自分の想像に身体が凍りついて動けない。  なんとか靴を脱ぎ、冷たい廊下に足をつける。  右のドアが俺たちの部屋。左がカイトのいるゲストルーム。どちらの部屋からも物音はしなかった。  右のドアのノブを回す。鍵はかかっていなかった。この部屋には内側からだけかけられる鍵がついていた。  部屋を覗くと主電気は消えており、ベッド横のチェストにあるライトだけが、室内を照していた。  ベッドの上の上掛けは、ちょうど一人分こんもりと盛り上がっていた。想像したようなことはなく、詩雨さんはちゃんとここにいる。  ほ……っと小さく溜息を|吐《つ》く。  しかしドアを閉め鍵をかけてもそこから動くことができない。 「遙人……おかえり……」  ベッドの山はもぞっと動き、詩雨さんがこちらに顔を向けた。 「……今日は忙しかった……?」  いつも通りの詩雨さんなのに、彼の顔をみるとまた昼間のことを思い出してもやもやする。 「…………」 「どうした?」  返事もなければ動きもしない俺を不思議に思ったのか、彼はベッドから降りて静かに近づいて来る。 (来ないでくれ)  制御不能になる予感しかない。  今更ながら何故帰って来てしまったのかと後悔する。今晩は何処かで頭を冷やしているべきだったと。 「先、寝てても良かったのに」  傍に来て欲しくなかった。だから、険のある言い方で遠ざけようとした。  しかし、一瞬止まって息を飲み、またそろっと足を運ぶ気配がした。逆光で彼がどんな表情をしているのかわからない。 「……遙人……どうした?」  心配そうな声。  手が伸びてきて俺の頬に触れようとする。俺はそれを遮り、両手をぎゅっと掴んだ。 「呑んできたの? ……一人で?」 「そうだよ。だから俺に触れるな。何するかわからない」  本気にしてないのか、くすっと笑う。 「酔ってるのか? 珍しいな」  俺は酒には強い。弱いのは詩雨さんのほうで、一緒に呑んでいても介抱するのは俺のほうだ。  今も酒に酔っているわけじゃない。  昼間から続く不快感に。そして、今間近にいる詩雨さんに酔っている。  この状態で触れられればどうなるか。  俺は理性を総動員して、その荒れ狂う欲望を抑え込んでいる。

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