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第7話

 ルドヴィックへの気持ちを理解して、俺は落ち着くまで屋敷の私室に引きこもることにした。  両親は心配していたけど、心労がたまったのだと説明するとあっさり納得した。先日七歳を迎えた弟は、一日に三度、食事を済ませてから俺の私室にやってくる。メイド曰く、俺が生きているか確認しているらしい。 『ノアム坊ちゃまが心配なのですよ』  あのころから仕えてくれているメイドは、食器を片付けつつ困ったように笑っていた。  メイドが出ていったのを確認して、俺は寝台に横になる。  あれから二週間。基本は私室から出ず、伯爵家の敷地外には一歩も出ていない。昔はずっと寝台の上が俺の居場所だった。なんだか、当時に戻ったみたいだ。 「でも、あのころはルドヴィックが話し相手として来てくれて、たくさん話をして――」  二人で笑い合って、楽しく過ごしていた。  けど、今回ばかりはそうはいかない。俺はルドヴィックが来ても通さないようにと両親に頼んでいた。  両親は不思議だったはずだ。今までずっと仲良くしていたルドヴィックを避けているのだから。 (一応喧嘩したから――ってことにしたけど、別の理由があるのはばれてるだろうな)  寝台の上で寝返りを打つ。  今の俺は、奇しくもゲーム内のノアムと同じ状態だった。  屋敷から一歩も出ずに、引きこもって、人と会うことを避けて――。 (……ゲームのノアムは、なにを考えてたんだろう)  俺にはわからない。  けど、想像はできる。多分苦しかった。辛かった。悲しかった。  もしかしたら、ゲームのノアムはルドヴィックを傷つけたことを悔いていたのではないだろうか。  ゲームのノアムも、悪いやつじゃないだろうから。 「ルドヴィック、今頃なにしてるんだろ」  リュリュとデートでもしてるのかな。愛をはぐくんでいるのかな。  抱きしめて、キスして。――セックスもしたかもしれない。  俺はこんなに苦しいのに。ルドヴィックは好きな人に愛をささやいて、愛を返してもらって。  ――ずるい。 「リュリュになりたかったな」  まぁ、願ったところでなれないけど。 「ルドヴィック、好き」  もしも、あのときの課題の提出を求められたら。  俺は言うんだろう。ルドヴィックに「好き」と。もう、気持ちをごまかせないから。 「大好き。俺、お前なしじゃ生きてけないよ……」  天井に手のひらを向けて、ぼうっとした。 「責任取ってよ。俺のことこんなにかき乱して、苦しめてるんだから」  誰にも届くはずのない言葉。願っても無駄なこと。  目をつむって、笑いをこぼした。馬鹿だ。俺、本当に――馬鹿だ。 「好き――お前が、好きだよ」  言葉をこぼしたとほぼ同時だった。俺の私室の扉が、勢いよく開いた。  慌てて起き上がって、そちらに視線を向ける。でも、気づいたら寝台に戻されていた。肩に指が食い込んで、痛い。 「――ノアム!」  大きな声で名前を呼ばれる。真ん前にいるのだから、叫ばなくてもいいのに。 (なんでここにいるんだよ)  顔を見ることができなかった。うつむいていると、指で顎をすくわれた。青の双眸が俺を射抜く。 「ルドヴィック……?」  小さな声でルドヴィックを呼ぶと、肩に食い込んだ指にさらに力がこもった。  俺を見下ろす瞳は、悲しい色を宿している。 「お前、なんで」 「……なんでって」  一体なんのことだろうか?  俺がきょとんとしていると、ルドヴィックがくしゃりと顔をゆがめた。 「ルドヴィックは、なにを言ってるんだよ。というか、なんでここにいるんだよ」  俺はルドヴィックは通さないように頼んでおいたのに! 「……俺がここにいたら、ダメなのか?」  双眸が鋭くなった。迫力がすごくて、俺の身体が跳ねた。 「そうだよね。ノアムに俺は必要ないんだよね」 「なに言って――」  言葉は最後まで続かない。 (――は?)  至近距離にあるルドヴィックの美しい顔。  気づいたときには、俺は――ルドヴィックにキスされていた。

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