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第9話

(なんでっ――!)  ルドヴィックの考えがわからない。 「ノアム、口開けて」  俺を見下ろす冷たい瞳と、淡々とした声。  こんなルドヴィックを知らなくて、怖くなる。  逆らえず、唇を開いた。 「そ、いい子」  ルドヴィックが俺の茶髪を撫でて――唇を重ねる。  そして、開いた唇に強引に舌をねじ込んだ。驚きから俺の身体が跳ねた。  口元からくちゅくちゅと水音がする。ルドヴィックの舌は俺の口腔内を余すところなく刺激する。  思考がぼんやりとしてくる。頭がふわふわする。このまま、ルドヴィックに身を任せたら――。 (だめだろ。リュリュのために――!)  控えめな力でルドヴィックの胸を押した。  でも、力じゃ敵わない。ここ数年ですっかりたくましくなったルドヴィックは、俺の抵抗をものともしなかった。 「ノアム、抵抗しないで。これ以上抵抗するなら縛るよ」  顔の上から降ってくる声に、身体が震えた。  付き合いが長いからこそ、わかる。ルドヴィックは本気だと。  恐る恐るルドヴィックの顔を見上げる。上目遣いになると、ルドヴィックが息をのんだ。 「可愛い。いっぱい気持ちよくしてあげるから」  唇にキスを落として、ルドヴィックが俺の衣服に手をかける。  はっとしてルドヴィックの手首をつかんだ。 「なに?」  にっこり笑って問いかけられ、俺は黙った。  これ以上抵抗したら縛るって、こいつ――。 「ルドヴィック」 「なあに」 「……なんで、こんなことするの」  自分でも驚くほどに声が弱い。  恐怖から身体が震える。ルドヴィックのことは好きだけど――気持ちのない行為は嫌だった。 「俺、ルドヴィックのこと不快にさせたか? それとも、俺が気に食わないの?」  声まで震えている。  俺、シナリオ通りにルドヴィックのトラウマになるべきだった? 「――そうだね。すごく、不快」  ルドヴィックは俺の手をつかんで、頭の上でひとまとめにした。俺の顔を覗き込む青の双眸が、ゆっくり細められていく。 「ノアムが俺から離れようとしているのが不快かな」 「けど、それは」 「それに、ノアムが俺以外のやつに想いを寄せているのも不快だよ」  ルドヴィックの指先が髪の毛を梳いた。かと思うと、一房だけ手に取って、唇を落とす。  王子さまがお姫さまにするようなキスに、目を奪われた。 「俺が一番ノアムのことを知ってる。……俺が一番、ノアムを愛してる」  つぶやきの意味を理解するより早く、ルドヴィックの手が俺のシャツをまくった。  俺の素肌に視線を落とし、ルドヴィックは笑った。 「きれい。ここに俺の痕を付けたら、ほかのやつには見せられないよね」  指先で肌をくすぐられる。  ルドヴィックの指は俺の腹を撫でて、胸元を撫でる。鎖骨部分を撫でたかと思うと――わき腹に触れた。 「ここ、傷残ってるんだね」 「――あっ」  そこにあるのは、『あの事件』の傷だ。  といっても、痛々しいものじゃない。縫った痕がうっすら残っているだけだ。 「可哀そう。痛かったよね。苦しかったよね」  ルドヴィックがわき腹に唇を寄せる。そのまま、傷痕に唇を落とした。  いつくしむようなキスに、目を見開く。 「でも、大丈夫。俺が一生かけて償うから」  こいつは本当になにを言っているんだろうか?  理解を求める俺をよそに、ルドヴィックの手のひらが俺の胸元に触れる。  女みたいにふくらみがあるわけじゃない胸に、ルドヴィックの手のひらが滑った。  円を描くように撫でられたかと思うと、中心の突起に指が触れた。 「うっ」 「気持ちいい?」  軽く反応した俺に、ルドヴィックが問いかけてくる。  突起をもてあそぶようにルドヴィックの指が動く。  気持ちいいはずないのに、声が漏れてしまう。甘ったるい声は、自分のものだと信じたくない。 「すぐに良くしてあげるから。きちんと気持ちよくなってくれないと、やる意味がないからね」  ルドヴィックが俺の胸に顔を近づける。嫌な予感が胸の中に渦巻いた。 「や、めっ――!」  乳首の先端に温かいものが触れる。 「これ、気持ちいい?」  ルドヴィックが舌先で乳首の先端をつつく。ダメ、ダメだって。これは、ダメだって――。

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