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第12話
嗚咽を漏らす俺を、ルドヴィックが困ったように見つめている。ルドヴィックが俺の身体を仰向けに戻す。
目をごしごしとこすると、ルドヴィックが俺の手を取った。そして、迷いなく目元に口づける。
「ノアム、泣かないで。……そんなに俺に抱かれるのが嫌?」
問いかけは震えていた。
どうして、ルドヴィックは動揺しているんだろうか。
「……だってお前には、好きなやつがいるから」
小さな声で伝える。ルドヴィックが「え」とこぼした。
「だから、俺、どうせ捨てられるじゃんか。気持ちの通じ合わない行為なんていやだ……」
消え入りそうなほどに小さな声で告げると、ルドヴィックが黙った。
図星だったからだろうか。
目を開いてルドヴィックを見つめると、ルドヴィックは硬直していた。
「ノアムはなにを言ってるの? 確かにノアムの気持ちは俺に向いてないけど、俺はずっとノアムが――」
「俺が?」
「ノアムが好きなんだよ。俺、ノアムと結婚しようと思ってるのに」
驚いて口が開いた。
瞬きを繰り返すと、ノアムの顔が一気に険しくなる。
「でも、ノアムは俺以外に好きな人がいるんだよね。けど、俺が一番ノアムを愛してるから。そんなやつよりも」
「待って、待って!」
意味がわからない。
じゃあ、あのときルドヴィックとリュリュが仲良く歩いていたのはどういうことだ?
「俺、見たんだよ。ルドヴィックが可愛い男の子と仲良く歩いてるの」
「あぁ、リュリュのこと」
悪びれる様子もなくルドヴィックが名前を呼ぶ。
「あいつはただの友人だよ。なんか恋愛相談とかし合っているうちに親しくなったんだ」
「……運命に出逢ってるって」
「うん、出逢ってるよ。俺の運命はほかでもないノアムだから」
唇にキスが降ってくる。
「俺の運命はノアムだよ。出逢ったときから、ノアムだけが好き」
ルドヴィックの手が俺の手を包み込む。
視線がせわしなく動いた。え、じゃあ、俺の勝手な勘違い?
(ゲームにつられて、勝手にそう思ってただけ?)
青の双眸を見つめると、真剣だった。……あぁ、ルドヴィックは本気なんだって、ようやく理解する。
「……ごめん」
自然と謝罪の言葉が出ていた。
「俺、ルドヴィックとあの男の子が恋仲だって思って……。それで、その。勝手に失恋したんだって決めつけて」
「失恋――?」
「それで、気持ちを抑えるために引きこもってたんだ。ルドヴィックにひどい言葉をぶつけちゃいそうだったから」
顔をくしゃっと歪めると、ルドヴィックがぽかんとしていた。
間抜けな表情でもかっこよく見えるのは、惚れた弱みなのか。はたまた、元々の顔がいいからなのか。
「待って、ノアム。その言い方だったら、ノアムが俺のこと好きみたいじゃんか」
ルドヴィックの手が俺の肩をつかむ。指が食い込んで、痛い。
「……うん、そう。俺、ルドヴィックが好き……」
目をぎゅっとつむった。一世一代の告白だった。
「ルドヴィックの側にいるうちに、俺、お前のこと親友だなんて思えなくなってた。お前と抱きしめあって、キスしたいって思ってた。もちろん、それ以上も」
「ノアム……」
顔が熱い。きっと、今の俺の顔は真っ赤だ。
「俺、お前が好き。めちゃくちゃ好き。誰にも負けないくらい――好き」
何度も「好き」と繰り返す。ルドヴィックの目が潤んだ。
「俺も好き。……ノアムが大好き。大切にしたい。いっそ、閉じ込めてしまいたい。俺だけ見ていてくれたらいいのにって思う」
「なに、それ」
「ノアムの世界が俺だけになったら、俺だけを愛するでしょ? 俺以外が消えたら、ノアムは俺を愛するでしょ?」
極論過ぎないだろうか。
でも、こういうところも好き。
俺は腕を伸ばして、ルドヴィックの身体を抱きしめる。
伝わってくる体温が心地よくて、自然と顔を胸に押し付けた。
(ルドヴィックの心臓の音、早い。すごい)
あぁ、こいつは生きているんだ――って、頭のどこかで思った。
「ルドヴィック……」
名前を口にすると、身体全体に幸福感が広がった。
さっきまでの切ない気持ちはどこへやら。今の俺は、世界一幸せかもしれない。
「なぁ、シよ……」
ルドヴィックの目を見て、誘う。大きく見開かれた目を見て、俺は笑った。
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