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第1章:異世界へ 第3話①
「こんな時間にこんな場所で海水浴か? さすがに趣味が悪いぜ?」
「かい、すいよく……?」
聞き慣れない単語に小首を傾げる。ぷかぷかと浮いていると、岸辺にいた一人がセイルへと向けてロープを投げてくれた。その綱を握り、岸辺へと引っ張り上げられる。
「なんだ、コスプレで泳いでたのか? どういう趣味の奴だよ。今時の若造の考えることってのはよく分かんねーな」
「い、いてててて」
耳を引っ張られて今度は痛みで涙が滲む。エルフにとって、耳は弱点の一つだ。こんなにぞんざいに扱うような場所ではない。
「やめてください! 痛いです!」
「あぁ? これ、取れねーのか? どういう整形だよ」
やっと耳を手放してはくれたが、まだヒリヒリと痛む。引っ張られた耳を擦りながら涙目で男の方を見つめていると、男の方がまじまじとセイルを見定めるような視線で全身を観察してきた。
随分と整った顔立ちの男性だった。漆黒の髪はオールバックで後ろへと撫でつけられ、意思の強そうな眉と鋭く切れ長の瞳がよく見える。鼻筋も高く通り、薄い唇はキュッと引き結ばれている。全身を黒づくめのスーツで包み、背も高く、脚まで長い。ノアリスもセイルと違ってエルフ族でも長身の部類であったが、それよりも更に高そうだ。
そして、この場にいる誰よりも圧倒的な存在感を放っている。
「随分とツラは良いようだが、この変わった趣味は、あんまり客にはウケなそうだな」
「ヒッ!」
またしても男が耳を引っ張ってこようと手を伸ばしてきたため、咄嗟に両手で耳を隠す。
男は傍にいた別の男と何か話をしているが、耳を押さえているため、何を言っているかは聞き取れない。
耳を引っ張ってきた男が顎を少し動かしたかと思うと、傍にいた男たちが小さく頷き、その中の一人がセイルへと近づいてきた。
「え、何? 何?」
近づいてきたスキンヘッドのいかつい顔をした男が手にしていたロープでセイルの手首を掴み、後ろで縛り上げる。そして足を引っ掛けられてその場に転がされたかと思うと、両足首も一纏めに拘束された。肩に担がれ、近くにあった黒い高級セダンへと運ばれる。
「何? 何されるの!?」
トランクルームを開けられ、その中へと放り投げられる。乱暴な扱いに顔を顰めていると、トランクが閉められた。再び訪れた暗闇の中、訳が分からず混乱する。
「うわっ!」
車が動き出した。走行による振動を受けながら、セイルはどうすることもできず、ただトランクの中でジッとしていることしかできなかった。
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