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第4章:抗争 第3話①

 ぼんやりしながら緩慢な動作で境内を掃き続ける。神社の裏手は人もおらず、参拝客へ愛想を振りまく必要もない。 「ねぇ、セイルちゃん、そこの砂利、いい加減にしないとなくなっちゃうよ?」 「あ、あれ? 悠真さん? あっ……すいません!」  声を掛けられ、ハッとする。下を見ると、確かに砂利の下の土が見えてしまっている。急いで元の通りに砂利を戻す。 「な~んか心ここにあらず~って感じだけど、どうしたの? 恋煩いでもかかっちゃった~?」 「もう、あんまりからかわないでくださいよぉ!」  ウヒヒと笑う悠真を放って社務所の中の掃除へと戻ろうとしたが、ピタリと足を止めた。 「セイルちゃん? 本当に何かあった?」  悠真の顔が心配げなものへと変わる。フルフルと首を横に振る。頭の中のこんがらがった全てを振り払うように。 「大丈夫です。何にもありませんよ。ちょっと遅れてやって来た夏バテですかね~?」  一度硬く瞼を閉じてから見開き、満面の笑みを作る。今度こそ社務所へ向かおうと足を出しかけたが、悠真に手首を取られて引き留められた。 「あっ……」  鷹臣から貰ったブレスレットが見えてしまう。咄嗟に手首を隠したが、悠真の視線はセイルの手首にくぎ付けとなっていた。 「もしかして、それ、鷹臣から?」  コクリと小さく頷いた。  外せと言われてしまうだろうか。外したくない。これを付けていることで、鷹臣と繋がっていられるような気がするから。 「大丈夫だよ。ダメなんて言わないからさ。祈祷の時はさすがに落としちゃったりしたらまずいから外した方が良いだろうけどさ。ちょっとだけ見せてもらっても良い?」  穏やかにほほ笑みかけられる。少し悩みつつも手首を隠していた手を外し、悠真へとブレスレットを付けたままの腕を見せた。  しばらくの間、悠真はブレスレットを触っていたが、口角を上げる。 「あいつがこういうのあげる相手なんて、多分セイルちゃんくらいだよ。愛されちゃってるじゃん!」 「そ、そんなんじゃないですよ。きっと気まぐれか何かです。……あ、そうだ。あの、今度お休みをいただきたいんですが、よろしいですか?」 「良いけど、いつ頃?」 「えっと、鷹臣さんのお休み次第だと思うので、いつ、とは私の方では分からないんですけど……」 「おおっ! デートかな? もちろん良いよ! 毎日頑張ってくれてるから、いつでも行っておいで」  手首から手を離され、今度は手を握られる。鷹臣の手とは少し感触が異なるが、大人の男性の大きな掌だ。 「あいつも今、結構いろんな厄介ごとに巻き込まれてて大変な時だろうから、たっぷり癒してあげてきてもらっても良いかな? 幼馴染としての僕からのお願い」 「私にできることであれば。と言っても、何かできる訳じゃないんですけど」 「良いんだよ。セイルちゃんが傍にいてくれることが今のあいつにとっては大切なことなんだろうからさ」  握られる手は力強い。少し痛く思うくらいだ。  見下ろしてくる悠真に対して、無言で首を縦に振った。

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