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第4章:抗争 第3話②

 ソワソワしながらまだかまだかと鷹臣の休みを待っていたが、なかなかその時は訪れなかった。相変わらず帰りは遅いし、忙しそうだ。  もしや忘れているのではないかと疑いそうになり始めた頃だった。悠真が「今日は早めに帰って良いよ」と言ってくれたこともあり、珍しく午後三時に上がれることになった。  慎吾に電話をかけ、早く上がる旨を告げる。スーパーに寄って帰ろうと持ってきていた服へと着替え、駐車場へと向かった。すると、いつも迎えに来てくれている慎吾の運転するシルバーのベンツの代わりに、黒いベンツが停まっていた。セイルが駐車場に姿を現したのとほぼ同時に運転席から鷹臣が降りて来る。 「鷹臣さん? どうしたんですか?」  普段、鷹臣が車両を運転することはない。お抱えの運転手がついている。だから、ここまで鷹臣が運転してきたのかと思うと驚きを隠せなかった。 「たまにはどっか連れて行ってやるって言っただろ。さすがに休みまでは取れなかったが、今日は午後から時間が空いたからな」  吸っていた煙草を携帯灰皿へと押し付け、助手席へと乗るように促された。  さすがに疎いセイルでもピンとくる。日曜日の今日、境内はそれなりに参拝客が訪れていた。そんな中、早上がりさせてくれるなんておかしいとは思っていたのだ。鷹臣から悠真へと連絡がいっていたのだろう。それならば慎吾がいないことにも納得ができる。知らぬはセイルだけだったようだ。 「も~! 先に言ってくださいよ! それに、ちゃんと一日ゆっくりとしたお休み取ってください! 鷹臣さん、ずーっと働き詰めじゃないですか」 「だから取っただろ。今日」 「突然すぎます!」  照れ隠しの文句を言いながらも助手席に乗り込んだ。いつも車での送迎時は後部座席に座っているので、何だか新鮮だ。視界が広い。  鷹臣も運転席に乗り込み、ゆっくりと車が動き出した。普段ならば陽気な慎吾が色々と話しかけてくれるため、車内は賑やかに過ごしていることが多いが、鷹臣は本当に自分から喋らない。  一方のセイルも以前、悠真から「デート」と言われたことが頭の中にこびりつき、緊張してしまう。  気の利いたことなど何も言えず、普段何を話していたか思い返していると、車窓に海が見えてきた。 「鷹臣さん、海! 海ですよ!」 「それくらい見れば分かる。そっち方面に向かってんだからな」  助手席の窓を開けた。風に潮の香りが混じっている。  大きく深呼吸をした。肺に入ってくる少しだけ冷えてきた空気が気持ち良い。 「……まさかとは思いますが、また簀巻きにされた人なんて、いる所じゃありませんよね?」 「いる訳ねぇだろうが」  恐る恐る聞いてみた問いに、鷹臣は心底嫌そうに顔を歪めていた。

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