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第2話

第1章 最初の支配-2  「土俵?」  牙琉はゆっくり距離を詰めた。黒い靴の先が床を打つたび、店の空気が音もなく沈む。  「夜がどこのものか、決めるのは俺だ」  胸ぐらを掴む。布の皺が、指の骨にこすれて音を立てる。  ルイの背中が壁に当たった。だが男は怯えない。むしろ、僅かに目を細めて、牙琉の顔を覗き込む。  「なに怒ってんだよ。……その目のまま、最後まで立っていられるなら大したもんだ」  「試してみるか」  「ああ。――で、立ってられなかったら、どうする?」  その軽さに苛立ちが走る。  牙琉は指に力を込め、襟元を引き上げた。頸動脈のあたりに、熱い血の鼓動が触れる。  ルイは顎をほんの少し上げて、耳元に唇を寄せた。  「若頭――お前、顔は鋭いのに、言葉には弱いだろ」  支配する側のはずが、囁き一つで足場を崩される。

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