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第4話

       第4章 甘い支配  夜更けの部屋には、カーテンの隙間から街の灯が差し込んでいた。  ネオンの明滅がベッドに映り込み、ルイのシルエットを妖しく縁取る。  牙琉はシーツに沈みながら、乱れた呼吸を整えられずにいた。  若頭としての冷酷な顔も、組を背負う威圧も、すべて剥ぎ取られた姿で。  ただひとりの男に見下ろされ、支配されるまま。  「……落ち着かねぇ」  牙琉が低く呟く。  「命令されねぇと……俺は、もう……」  その声は、若頭らしからぬ弱さを孕んでいた。  誰にも見せたことのない、情けない告白。  牙琉自身、口にしてしまったことに愕然としながらも、喉の奥から漏れ出す声を止められなかった。  ルイは口角を上げると、牙琉の顎を指先で持ち上げる。  「へえ。命令が欲しくて震えてんのか」  「……っ」  「お前、息するのも俺の言葉次第だろ?」  挑発的に吐き捨てられた言葉に、牙琉の体がびくりと震える。  否定しなければならないのに、唇は勝手に開いてしまう。  「……ああ、そうだ……」 ⸻  ルイの目が細められる。  その表情は嗜虐でありながら、甘い蜜のようでもあった。  「よし、じゃあ命令してやる」  そう言って、牙琉の両手首をシーツへ押しつけた。  軽い拘束。それだけで胸の奥が熱に焼かれる。  自由を奪われることが、これほどまでに安堵をもたらすとは。  「動くな」  短く告げられた声。  その瞬間、牙琉の喉から息が洩れる。  命令が与えられたことで、体の芯に溜まっていた不安がすっと消えていく。  代わりに広がるのは、全身を満たす恍惚。  「……っ……動かない、動けねぇ……」  牙琉の声は震え、だがどこか甘い響きを帯びていた。  支配されることが、彼にとって救済となっていた。 ⸻  ルイは牙琉の耳元に唇を寄せる。  「いい子だな。命令されると落ち着くんだろ?」  「……ああ……お前の言葉がねぇと……俺は……」  「はは、完全に犬じゃねぇか。若頭様が」  嘲笑混じりの囁きに、牙琉は顔を背ける。  恥辱と背徳に焼かれる。  だが、背けた首筋に舌が這った瞬間、背中が震え、シーツを握る手がきつくなる。  「ルイ……もっと、命令してくれ……」  哀願のような声が漏れる。  「いいねぇ。お前、自分でそう言うの待ってた」  ルイは牙琉の唇を噛み、息が触れる距離で笑った。  「次は何して欲しい? 動くなって言ったら……ずっと縛られてろ」  「っ……!」  命令が重なるたび、牙琉の内側で快楽が螺旋を描いていく。  「……俺はもう、戻れねぇ……」  絞り出すように吐かれたその言葉は、告白にも絶望にも似ていた。  牙琉は悟ったのだ。  自分がもう二度と、命令のない場所へは戻れないことを。 ⸻

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