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第6話

        秘密の崩壊  会合を終えたばかりの夜、若頭・玖条牙琉はひとり暗い部屋に腰を下ろしていた。  背筋を伸ばし、どこから見ても冷酷な顔を作っている。だが胸の奥は、まるで嵐のように乱れていた。 (……あの視線、気づかれたか?)  組員の一人が、まるで知っているかのような眼でこちらを見ていた。  首元に残る薄い痕跡。どんなに隠しても、あの男が刻んだ印は消えない。 「……チッ」  牙琉は上着を脱ぎ捨て、額を押さえた。  だがその瞬間、背後から軽い足音が近づいてきた。 「おつかれ〜若頭さま♡ 随分ピリピリしてんじゃん?」  軽薄な声音。  振り向くより早く、肩を掴まれ、壁に押し付けられた。 「……ルイ……!」  天堂ルイ。  表向きはただの会社員、実態は夜を渡り歩く男。  唯一、牙琉が抗えない存在。 「なぁ、ちょっと録音してやろうか?」  ルイはポケットからスマホを取り出し、にやりと笑う。 「“ルイ様、命令してくれ”って泣いてる声、組のグループに送信、とか?」 「や、やめろ……! 頼む、それだけは……っ」  牙琉の声は震えていた。  極道の若頭が、必死に懇願する姿。  それを見下ろすルイの目は、ぞくりとするほど残酷に輝いていた。 「ほらな? やっぱお前、俺の犬だわ」  耳元で囁き、ルイは顎を掴んだ。 「声抑えろよ? ……いや、無理か」  次の瞬間、唇を強引に塞がれる。  息を奪われ、喉から零れるくぐもった声。  牙琉は抵抗しようとしたが、すぐに全身が熱に支配されていく。 「ん……ッ、く……」  足が震える。  押し殺そうとしても、喉の奥から洩れる声は止められない。 「……ダメだって言ったろ」  ルイは低く囁き、牙琉の口を手で覆った。  そのまま腰を引き寄せ、耳元に命令を落とす。 「黙れ、犬」  その一言に、牙琉の身体はびくりと跳ねた。  羞恥と恐怖、そしてどうしようもない快感が、全てを塗りつぶしていく。 (俺は……若頭なのに……!)  涙が滲む。だが背筋を伝う熱は、もう止まらなかった。  屈辱の極みにあって、牙琉は悟る。 「……もう……ルイなしじゃ……立てねぇ……」  その告白は、まるで呪いのように空気を震わせた。  ルイは愉快そうに笑い、牙琉の耳を噛む。 「はは、最高だな。完全に俺のもんじゃん」  支配と屈辱の狭間で、若頭の秘密は音を立てて崩れ落ちていった。 ⸻

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