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雨音、ランデブー 後編

陽月×春陽 『雨音、ランデブー』後編  ふわふわする頭の片隅で、陽月の声がする。「起きて」と、覚醒を促されているみたいだ。 《はる、起きろ》  はっきりとコマンドを受けて、春陽はぱちりと目を開ける。  陽月が少し心配そうに見つめていた。瞳の焦点が合って、安堵の息を吐く。 「おはよう。着いたよ」 「あ……」  そうだ……雨のせいで不安定になって……。  まだどこか、はっきりとしない頭を回転させて考える。意識の遠くでは雨音が聞こえる。  陽月は、そんな春陽の手を繋いだまま、家の中へと歩みを進めた。  すれ違う使用人たちはみな足を止め、「お帰りなさいませ」と二人に頭を下げる。「ただいま」と声を揃えて返した。  てっきり、このまま自室へと送ってくれるのだと、春陽は思っていた。けれど、繋いだ手は離されないまま、陽月の部屋の方へ向かう。  あれ? と気付いた時には、陽月は自室の扉を開けていた。春陽を連れて。 「ひい……、っん……」  どうしたの? と、聞きたい唇が塞がれた。腰を引き寄せられて、更に離れないように密着する。深い口付けは、春陽の意識をはっきりと覚醒させて、そして逆にうっとりとさせる。 「……あれで満足するなよ……?」  唇が離れた瞬間、陽月に囁かれ、びくりと身体中の細胞が甘く反応した。ワントーン落とした声色に、ああ――と春陽は理解する。  抱かれるのだ、これから――。 「……まだ明るいよ……?」 「時間なんて関係ないだろ?」  一応、聞いてはみたものの、そんな些細な疑問すら、許して貰えそうにない。  陽月の意図が伝わった春陽の体は、陽月の体に馴染むように急速に熱を持ち始める。感じていた不安も何もかも、この腕の中で一緒に溶けていくのだ、と思うと怖いくらいに幸せだった。  衣服を全部脱ぎ捨てて、二人、ベッドの上で向かい合う。解いた春陽の髪がさらりと落ちて、軽く反応を始める胸の先を隠した。  陽月はそれを指先で丁寧に掬い上げ、柔らかな束に唇を寄せる。紳士的なその動作は、まるで誓いのキスのように美しく、春陽の瞳に映った。  捉えられたままの髪先が、陽月の指で弄ばれている。体に直接触れられているわけじゃないのに、下腹部がキュンと疼いた。  そっちじゃなくて……体に触れて欲しい……。  春陽がそっと陽月の指に触れる。自身の髪を払って、代わりに指を絡ませた。  陽月が視線を送ると、少しだけ拗ねたような……何か、文句を言いたげな春陽の顔があった。  髪だって、春陽の可愛い体の一部なのに……嫉妬するような仕草が、たまらなく愛おしい。  なら、と陽月は繋いだ春陽の指先に口付けた。ぴくっ、と春陽の身体が素直に揺れる。薄く唇を開いて、指の先を愛撫すると、もう、と春陽の小さな声がした。 「いじわるしないで……っ」  熱を宿した瞳が、泣き出しそうに揺らいでいる。ほんのり色付いた肌や、言葉を我慢するように口元に添えられた手が、早く早く、と待ち望んでいるように見えた。  それだけで、陽月は満ち足りた気分になる。春陽の全身で、陽月のものになりたい、と主張しているのが分かるから。  また、それを叶えることが出来るのが、自分しかいないという優越感――最高だ。  とろりと蜜を零す入口を撫で、中の様子を確かめるように指を進める。柔らかなそこは無抵抗に陽月の指先を受け入れてくれた。けれど、春陽は嫌々と陽月の腕に触れ、「違う」と呟く。  なんで、くれないの……?  あげるよ、今すぐ。  おくまで、くれる?  奥まで、あげる。  欲しがったのは春陽の方なのだから、と、容赦なく最奥を突き上げた。春陽のそこは痛がるどころか、待ち構えていたようにしっとりと陽月を包み混んで、繰り返し悦びに震える。  甘く鳴く唇を塞いで、二度と離れないように抱きしめて、お互いを貪り合う。何度絶頂を与えても、まだ欲しがってくれる春陽が愛おしかった。  好き、大好き、愛してる。  身も心も、二人の全部溶け合った先の世界は、ただひたすらに温かくて、優しい楽園だった。  ふ……と意識が戻ってきて、まだ少しだけ重いまぶたを開いた。 「目、覚めた?」  今日何度目かの、おはよう、を陽月の口から聞く。 「……俺、寝ちゃってた?」 「終わって、そのままな」  平然と言われて、春陽は途端に恥ずかしくなる。 「陽月がやり過ぎるからだもん」 「春陽が欲しがるからだろ」 「だって、いじわるするから……」  唇を尖らせると、陽月は「可愛い」と笑ってキスをくれる。それに答えたのは、ぐぅ、という春陽のお腹の虫だった。  あはは、と思わず陽月も声を上げて笑う。 「もおお〜……情緒がないぃ〜……」 「そんなことない。元気が出た証拠だろ?」  優しく頭を撫で、陽月がベッドから出る。春陽もゆっくりと体を起こした。  外はすっかり夜の帳に包まれて、雨上がりの空は、普段より澄んだ星の光を届けている。それは、強くて優しい、幸せに満ちた二人の瞳のようだった。 ――END

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