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序章 /3
右手の近くにはエールが並々に注がれたジョッキがある。ここはヒースが毎夜通っている酒場だ。どうやらうたた寝をしてしまっていたらしい。
目覚めは最悪だ。
四年前までは頻繁に見ていた夢だが、ここ最近ではぱったり見なくなったというのに――……。
「なんだって今頃……」
あの戦いで右頬から顎にかけてできた深い傷痕も未だ消えず、すっかり醜い姿と成り果ててしまった。
一〇年という月日が流れた今でも残るこの傷痕とヒースの心の状態は同じなのかもしれない。
「ヒース、楽しんでいるか?」
陽気な声でこちらに話しかける男の身長は優に一九〇を越えている。腰まである金髪の長い髪に男らしい引き締まった肉体。はきりした目鼻立ちもさながら、分け隔てなく打ち解けることのできる人懐っこい陽気な性格と相俟ってこの辺りではハンサムで通っている。彼は顔を赤らめ、ジョッキ片手に細身の女性と戯れながらこちらへやって来た。彼の傍らに女性を見かけない日はないほどの人気ぶりだった。
骨張った手が服の上から女性のヒップを撫で、手の甲でさらにふたつの魅力的な膨らみの頂点にあるだろう乳頭のうちひとつを円を描くように優しく撫で上げた。女性はうっとりと心地好さそうに彼へ身体を預けるものの、デューイが浮かないヒースの状態を知ると、彼は女性に何やら囁きかけた。女性が甘い微笑みを返せば、デューイは自身の唇を彼女の唇へ軽く押し当てた。唇が離れる直後にリップ音が鳴る。女性は余程嬉しかったのか、ヒップを揺らしながら少し離れたカウンターテーブルへ戻った。連れの女性と何やら楽しげに談笑していた。デューイと過ごす今夜のことを想像して会話が弾んでいるのかもしれない。
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