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序章 /4

 彼女が手を振れば、デューイも手を振って返した。  ――自分にもたしかにあったあのような甘い時間はいったいどこに消え去ったのだろうか。  例の戦い以来、女性を信じることができず、すっかり臆病者になってしまった。女性と過ごせばどう足掻いても悪い方向に思考が向いてしまう。――いや、女性だけではない。ヒースにとって田舎でのんびり暮らしている両親と親友であるデューイ以外、心を許せる人間は誰ひとりとしていなかった。 「これが楽しんでいるように見えるか?」  ヒースはエールを一気に飲み干し、勢いよくジョッキをテーブルに置くと気怠げに返した。 「……最悪だな。女性が君を見れば卒倒するだろうね」  デューイは首を振った後、さらに訊ねた。 「悪夢でも見たのか?」  冗談交じりに訊ねられたものの、間違いではない。ヒースは大きなため息をつきながら重々しく答える。 「一〇年前の戦いの夢を見た――」 「こんな公衆の場でうたた寝をするなんてお前にしては珍しいな。まあ、あれはたしかに最悪だった。もう随分前の過去だ。いい加減、忘れるに越したことはないぞ?」  デューイが元気づけようとしているのは明かで、ヒースの方を軽く叩いた――直後だ。扉が開く大きな物音がしたかと思えば、フードを被った旅人ふうの男が酒場に入ってきた。 「マクブレイン卿はこちらにいらっしゃるか?」 「おや、君に用とは珍しいね。女性からの誘いでないことを祈るよ」  眉根を潜めるヒースにデューイが面白可笑しそうに笑う。  デューイが茶化すのも無理はない。ヒースもけっして醜男(ぶおとこ)ではないからだ。

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