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第1話 /1
――ありふれた光景と変化の兆し。――
北部に位置するここの冬は極寒、夏なら白夜。日照時間は長いが夜は寒さが増す過酷な国。
それがメイフィールドである。
雪解けを迎えたこの時期にはよくあることだ。山の頂上に降り積もった雪は白く輝く強い太陽の日差しで溶け出し、水分として大地を緩ませている。平坦な地形では湖や湿地帯が多いのもこの国の特徴だった。
寒さに強いアカマツやトウヒといった、高さ二五メートルまで育つ木々が森を守る。おかげで被害はどうにか最小限に抑えられてはいるようだが、それでも蹄が泥濘に埋もれる。エマリー・メイフィールドは手綱を握り、急ぎ、かつ慎重に、一歩、また一歩と足元を掬われないよう、用心深く進んでいた。
「エマリー様、長旅でお疲れではありませんか? 少しお休みになられてはいかがでしょう」
すぐ背後から栗毛の馬に乗った従者が提案した。
「そんな暇なんてない。休みたければ独りでそこで待っていればいいだろう?」
エマリーはぴしゃりと言い放った。
こうしている間にも刻一刻と時を刻んでいる。エマリーが急ぐのも訳があった。
そもそも父親であるサイモン・メイフィールドこと、メイフィールド国王に一通の手紙が届いたのは一週間前、メイフィールド国から離れた、名もなき小さな村で土砂災害が起きたという。元々孤立していた村のため、怪我人がいるかどうかも分からず、医師さえも駆けつけることができない。そこで国王から言い渡されたのは、王子としてその身のすべてをもって村の状況を見届け、必要であれば手助けせよ、という内容だった。
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