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第1話 /2
こうして村の視察に向かうため、エマリーは王国を出たのだった。
普段は穏やかな表情をしているこの川の流れは速く、土砂の影響から濁っている。
本来ならばこのまま進めば目的の村まで早々にたどり着けるのだが、川を渡りきることができない。
迂回して進まねばならなかった。
ただでさえ時間を有するというこの有様だ。それを休もうとは――この男、いったいどういった思考の持ち主なのだろう。
エマリーは一国の王子として――何より、ひとりの人間として、とにかく村人の無事を一刻も早く知りたかった。
自分の軽はずみな考えで助けられる筈だった命という灯が消えゆく様を、もう見たくはなかったのだ。
「しかし、こうして食料やら必要な物資を運んでいる皆も疲労している筈です。何より、わたくしは貴方様のお身体が心配でなりません」
従者はエマリーが強く言って聞かせても引き下がらなかった。
エマリーは怒鳴りたくなる気持ちを必死に押し殺し、唇を引き結んだ。
――ここ最近から、このマニオン・ジャブジオという男の、所作ひとつひとつがエマリーの癪に障る……。
幼少期の頃より剣の指南役として仕えている彼は、メイフィールド国で一、二を争うほど腕が立つ強者だ。
襟足まであるストレートの銀髪に強い意志を感じさせる角ばった二つに割れた顎。細く鋭い眼光をした黄褐色の目。一九〇センチほどの高身長で肩幅も広く、なかなかの美丈夫だ。その容姿から女性には人気があった。
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