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第8話

 俺は今、資料室に並んでいる会議テーブルの一つに押し倒されていた。  夕日の光だけで照らされた部屋は相変わらず薄暗い。俺を押し倒しているタツヤさんの顔はよく見えなかった。必死に抵抗したが、力の差は歴然だった。最終的に紐状の何かで両手を頭の上で拘束されてしまった。紐の先が机の脚にでもくくりつけられたのか手を動かす事が出来なかった。ならばと動く足で蹴ったりもしたがびくともしなかった。  タツヤさんはとても楽しそうに俺の服を剥いでいる。  もしや、と思ってはいたが直面すると恐怖は段違いだった。タツヤさんは俺をこのまま抱く気なんだろう。そんな関係じゃない、とか変態野郎、とかもう何叫んだか分からないくらいに騒いだがそれも今は出来ない。口に布を突っ込まれてしまったからだ。多分これ俺の靴下だ。苦しい、鼻詰まってたら窒息してたんだがその場合どうしてくれるんだ。  気付いたら俺は服を1枚もまとっていない姿にされていた。 「駄々っ子め、やっと大人しくなったな」  抵抗でずっと体を暴れさせていた為、その疲れで動けなくなった所を抑え込まれてしまったらもう何も出来なかった。 「……ん、んん……!」  怖くて仕方がない。タツヤさんが俺に覆いかぶさってきた。疲れて力の入らない右足を持ち上げられる。自分でも絶対見ない所をまじまじと観察している視線に、恥ずかしくて死にそうになった。目を閉じる。 「……ま、何日もヤってなきゃそうなるわな」  そう呟くとタツヤさんは手を動かし、指を一本俺の後ろの穴に埋めた。そのまま指を動かされ、穴を広げるように解される。 「ッ…!」  慣れない場所の慣れない感覚にぞわぞわと怖気立つ。気持ち悪い……!  器用な事に、タツヤさんは指で穴を解しながら俺の首筋や鎖骨を舌で舐め始めた。舌のざらざらとした感触に身を捩る。拘束されている為、ぎし、ぎしと紐と机が軋む音がした。 「おい」  舌の感覚が無くなった。  声を掛けられた為、仕方なく目を開けて惨状を目にすると、タツヤさんは穴に入れている指の動きも止めていた。 「塩っぱい」  わざわざ顔を上げて俺の目に視線を合わせて舌を見せつけてきた。それに「それなら舐めるのやめろ!」と伝えようとしたが 「んんんむ、んんん!」 という声しか出なかった。声の抵抗すら出来ない俺が面白かったのか 「何言ってるか全然わかんね」 と、意地悪く笑ったタツヤさんがまた動きを再開した。しかも次は。 「んーッ! んんーッ‼」  胸を舌でなぞられる感触がきた。乳頭を舌でコロコロと舐められたり、口に含まれて吸われたり、弄ばれた。そんな事誰にもされた事無かったし、そもそもされる事があるという考えすら無かった為俺は激しく体を動かして抵抗した。しかしそんな弱い抵抗はすぐに押さえつけられ、俺はただ大人しく胸の突起を舐められ、胸全体を嬲られる屈辱を味合わなければならなかった。  暫く後ろを解されながら胸を弄られていると、なんだか変な感覚が昇ってきた。なにこれ、と困惑する。何だかさっきからハァハァ煩いが、これは布で隔たれた俺の口から隙間を通して出ている呼吸音だった。何で、と俺が戸惑っているのを察したのかタツヤさんが胸を舐めながら目線だけ俺に寄越してきた。目だけでも笑っているのが分かる。  タツヤさんが胸から顔を上げた。 「……っ‼」  片足をタツヤさんの肩に乗せられ、空いたタツヤさんの手が俺の性器に触れた。 「ちゃんと感じてるな」  しっかりと勃ち上がっていたソレは、先端から透明な粘液を出していた。ピンッと先端を指で弾かれて一層ゾワゾワした感覚が全身を突き抜けた。そのまま優しく握られ、上下に擦られる。それをまるで待ち望んでいたかのように粘液が更に溢れ出した。 (どうしよ、気持ちいい、どうしよう、どうすりゃいいんだ、気持ちいい、逃げなきゃ、逃げ、もっと、うう)  俺は心の中で大混乱していた。こんな事したくないという思いと、気持ちよくて仕方が無いという欲と、早く逃げたいという思いと、もっとして欲しいという欲が混ざって頭がぐるぐるしていた。して欲しい訳が無い、俺はタツヤさんの事など好きでもなんでもないし、自分は誰とでもこんな行為をするようなふしだらな奴ではない。だがしかし与えられる快楽が激しすぎてまともに頭が回らなかった。  普段から……というか前世からあまり性的なことには興味が無くて、たまにどうしても体がうずく時に嫌々何かしら性的なものを検索して自慰で慰めて、終わったらさっさと消して忘れるようにしていた。恋人とかもいなかったので当然経験など無いしそもそも誰かと体を重ねるとか想像した事も無い。そんな未経験、未知、未習熟のハットトリックで余計に今タツヤさんに翻弄されてしまっているのだろう。  後ろの穴に入れられている指がいつの間にか二本に増え、前の象徴を上下に擦られて、前後同時に攻められてたまらない感覚が襲ってきた。布の隙間から荒い息と掠れた喘ぎ声が自分の耳にも届いていた。腰が勝手に浮いたり沈んだり、動く足をバタバタさせていた。 「ハハッ、相変わらず快楽によっわいなあ」  指に俺の先走り液をつけたのか、穴を弄る際にぐちょぐちょ、と粘着性の高い音がしていた。  津波のように襲ってくる快楽にひたすら悶えていると、突然、先程までとは比べものにならない程の快感の大波が襲ってきた。 「ん、んんぐっうあぁ……‼」  まるで全速力で何かが追いかけてくるような、それから必死に逃げているような謎の焦燥感に、満足に声を出せないのに叫ばずにはいられなかった。 「はんは! はんふぁふる、ひゃめて、ひゃめ、へほほへて……‼」  何かが来る、手を止めて欲しいと必死に訴えるが全く言葉にならなかった。 「頭悪い馬鹿になったみたいで面白〜」  届いたとして面白がっているタツヤさんは絶対に手を止めてくれなかっただろう。しかし頭が真っ白になる程の快楽の波に翻弄されていた俺はそんな事にも気付かずに必死に助けと停止を求め続けた。 「た、たひゅけ……ッッ、あ、ああああああッ‼」  そして、逃げ切れなかった快楽の波にのみ込まれた俺は、それから逃れようと大声で叫んで、同時に快楽の頂点のような激しさを感じて、性器から精液を溢れさせて……そして脱力した。  お腹にパタパタと自分の精液がかかるのを感じる。射精したらしい。頭がぼうっとして、熱のこもった吐息を布の隙間から零して、力が抜けて机に全身を委ねていた。なにもかもがぼんやりしている。とても眠い。目が、ゆっくり閉じていく。 「おい気絶すんなよ」  左頬の衝撃と共に頭と視界が揺れた。  意識はしっかりしたが、また左頬が熱を持った。また、叩かれたらしい。目を開けて、ゆっくりと視線をタツヤさんに向ける。  タツヤさんは、ズボンの前を寛げて俺に覆いかぶさっていた。くち、と粘着音を立てて何か固くて熱いものが後ろの穴に触れる感覚がする。一気に顔が青くなった。 「……あ、まっ、へ……」  待って、と言いたかったが呂律が回らず、布に遮られてうまく喋れなかった。俺の制止を何ともせず、タツヤさんは腰を進めていく。 (や、やだ、ヤダヤダヤダッ‼)  異物が自分の中に入ってくる奇妙な感覚にパニックになる。本気で嫌悪感を感じて、力の入らない足でタツヤさんを何度も蹴るがびくともしない。 そして。 「ーッぅ⁉」 グチュン‼という音を立てて一気に奥まで挿入された。衝撃と肌と肌がぶつかる音がして、目の前が白くなった。  触れた肌が熱い。息がうまく、出来ない。 「もしもーし、挿れただけで何トんでんだ? 起きろ!」 「んおっ……!」  ガンっと腰を叩きつけられた。更に奥まで入り込まれて、中を抉られて声が出た。 「そういや口に靴下突っ込んだままだったな。取ってやるよ」 「ゔぇ……‼ ゲホッ、ゴホッ……‼」  ずる、と靴下が口から取り出される。咳き込んでしまった。そして息が荒かったのに満足に呼吸が出来なかった分、なんとか呼吸を正常にしようとしたが、 「ぐ、っ、ふっ、ぐ……! んゔ……‼」 タツヤさんが律動を開始してしまった。体が揺すられ、中を擦られる度に出したくもない声が口から出てしまう。呼吸なんて満足に出来る訳が無かった。  苦しくて、仕方が無い。そしてその苦しみの奥にあるものに気付きたくなかった。  タツヤさんは息をもらし、呼吸をする以外は何も喋らずニヤニヤとした顔で腰を打ち付け続けた。部屋には突かれる度に出る俺の声が響き渡っている。 (気持ち悪い気持ち悪……、なのにうう、なにこれ、ぞわぞわする、なにこれさっきとちがう、気持ちわ……るいのに、クセになりそ、う)  こんな事されたくない、嫌で嫌で仕方が無い、早く終われ、と俺は思っている筈なのに。気がつけば、突かれる度に訪れる痺れるような、くすぐったいような、たまらない感覚にどんどん頭が支配されていった。 「おあっ、んお、ぅ……ぁっ……や、めっ、あ、」  そしていつ頃からか口から出る声の声色が変わっていた。苦しみが滲んでいる声から、先程前と後ろを同時に弄ばれた時のような、上擦った声に。 「あっ、はへ……! あぁっ」 (俺、こんな声出せるんだ)  快楽に支配されながらぼんやりそう思った。こんなに暴力的に気持ちいいのを無理矢理与えられ、それに堕ちていく感覚に嫌悪感を抱く暇さえなかった。普通なら蹴り飛ばしてでもタツヤさんから逃げないといけない事は十分理解しているし、これはレイプなのも分かっている。なのに、あまりの『良さ』に溺れてしまう。  俺の悪い面が、このまま快楽に身を堕としてしまえ、と囁く。流され体質で抗う事を諦めてしまっていた自分が顔を出した事に嫌気が差す。駄目だって分かってるのに、自分の意志で抗っていきたいと決めて、願っているはずなのに。そうして、抵抗が弱まり身を委ねそうになった時に。 (あ、シュンゲツさ、)  シュンゲツさんの顔がよぎって、頭が少し冷静さを取り戻した。タツヤさんの律動は今もひっきりなしに続いている。あまりの気持ちよさに口からは我慢出来ない嬌声が漏れ出てしまっているが、なんとか頭を回す。 (そうだ、俺はシュンゲツさんに、向き合いたいんだ。何で身を委ねようなんてしてるんだ。こんな所でこんな人に好きにされている場合じゃ……)  そこまで考えて、この状況に疑問を抱いた。 (あれ、どうして俺が昔襲った筈のタツヤさんに今逆に襲われているんだ……?)  声を出して揺さぶられるがままになっていた微睡みから覚醒する。相変わらず与えられ続けている暴力的な快楽にまた思考が鈍りそうになるが、必死に頭を回す。やはり、こんな人を好きになって自分が襲うなんて……ありえない。  あの過去の記憶は、前提が間違っている疑いがある。そもそも一場面を切り取っただけの記憶だ、足りないピースがありすぎる。前後を思い出さなければ。その為にも、今のこの状況から抜け出せなければ。 「っの、やめ、ろぉ……‼ 離れろぉ‼」  手は動かせない、足で俺を組み敷いているタツヤさんを蹴る。突然明確な抵抗を始めた俺に、タツヤさんは少し面食らったようだった。しかしすぐに楽しそうにまた笑う。 「ハハッ何だよ今更抵抗か? あんなにアンアン喘いでおいて⁉」 「うるっ、さい……! 止まれぇっんあ、」  満足に動かせない体で、声で必死に抵抗を示す。動かせない手も縛っている紐を引きちぎる心持ちで暴れさせる。手首に酷い痕が出来るだろうが構うものか。  少しでも気を抜くと快楽に頭が染まってしまいそうになるのを必死に暴れて無理矢理正気に戻していた。 「あ〜〜ックソッ‼ お前本当にさあ‼」 「おごッッ」  一際強く腰を強く押し付けられ、衝撃とあまりの気持ちよさに息が詰まった。同時にぴゅるっと俺の性器から液体が飛び出る。達してしまったらしい。 「そうやって嫌がって抵抗されるのって俺最高に燃えるんだよッ! お前だって優しくされるより乱暴にされる方が好きだよなあ⁉」  俺の必至の抵抗はただタツヤさんをより興奮させる材料にしかならなかった。タツヤさんは目をギラギラさせて、俺を労る気持ちなど微塵もなく乱暴に腰を打ち付けていた。 「そん、そんな、こと……っう、は、まって、いま、イッたか、ら‼ やめ、ろぉっ」  達したままの状態でも容赦のないピストンで、絶頂から抜け出せない。頭がおかしくなりそうだった。思考が快楽に塗り替えられていく。 (むり、むりむりむりむり‼ 気持ちよすぎる、ダメだ、もってかれる……‼) 「あ、ああああ、ああああ‼」  何も効果が無いと分かっていても、逃がせない快楽を少しでも和らげたくて俺は叫んだ。叫んで暴れた。  しかし、俺の中でタツヤさんのモノがある一点を擦った時に目の前が真っ白に弾けた感覚がして体が痙攣して動きが勝手に止まってしまった。何だ、今の。気持ちいいとかそういうレベルの感覚じゃなかった。それ以上の何かだった。  そして俺の体が大きく跳ねたのを確認したタツヤさんは、 「いぎッ⁉」 ニヤリと笑ってその一点を集中的に突き始めた。目の前で閃光が何度も弾ける。これは駄目だ。これは駄目なものだ!  強すぎる快楽についに俺はまともな思考を回す事が出来なくなっていった。もう誰の顔が浮かんでいてこの状況が何でおかしいのかとかどうでもよくなって、ただただこの嵐に翻弄されているだけだった。 「おっ、あっ、し、ぬぅ‼ しんじゃ、うぅ‼」  このまま俺の意識が焼き切れてしまうのではないかという行き過ぎた快楽からの死への恐怖から俺は、眼の前にいる奴が元凶なのに助けを求めるように涙を流しながら命乞いをした。 「い、いく、イクイクイクいっちゃ、う、イッちゃうッ‼ 止めて、とめて、ああッ‼」  そして、タツヤさんの顔が歪む。腰を今までで一番強く叩きつけられた。 「……っ、ぐ……!」 「イッ……いあああああッ‼」  お腹に熱いものを注がれ、同時に俺は再び、先程より激しく絶頂した。精液が隙間から溢れないように、タツヤさんはより強くぐぐ、と腰を押し付けてきた。それすらも快感にかわり、悶えてしまう。  頭が真っ白になりながら、ゆっくりとタツヤさんを見て、汗が溢れて息を乱しているその顔を視界に捉えた。  その瞬間だった。 「えあ?」  世界が真っ黒く暗転した。 ◆ 『タツヤさん、好きです。好きなんです、好きでごめんなさい。ごめんなさい……!』  心がとてもざわついていた。  俺は涙を流してタツヤさんに正面から抱き着いていた。視界が潤んでいる。タツヤさんの顔が滲んで見えた後、視線が下がり鎖骨が見えた。うつむいたらしい。  見える範囲で把握すると、薄暗い部屋で、お互い服は身につけていなくて、ベッドの上にいた。頼りないシーツ一枚をかぶり、俺は震えていた。 『トモ……っ、言ったろ? 俺はお前を許すって。さあ、今日は俺とどんな事がしたいんだ? 俺はお前の願いを叶えてやるよ』  そんな俺にタツヤさんは少し震えていたが優しい声で語りかけていた。その声を聞いた俺の視界が暗くなる。目を閉じたらしい。 『僕の事、乱暴にしたって、首を絞めたって、腕折ったっていいんです。滅茶苦茶に抱いて下さい…! 僕に、あなたを刻みつけて下さい』  何を口走っているのか、と驚愕した。と、同時に心が満たされそうで満たされない欲に支配されていくのが分かった。目の前にいるタツヤさんにどうしても自分を許して欲しい、愛して欲しい、壊して欲しいという欲に。  記憶の中の俺はそのままタツヤさんに押し倒され、このタツヤさんに抱かれ始めていた。それはもう、乱暴に。首を絞められ、腰を力任せに打ち付けられ、俺は苦しみながらよがっていた。  それを俺はまるで俯瞰するように見ていた。心がとても落ち着かない。 (うら、やましい)  だんだんと、今見ている光景が遠くなっていく。遠くなればなるほど俺の心は嫉妬と羨望でいっぱいになっていった。俺だってそうされたい、俺だってそうしたい。 (何だよこれ、何だよこの気持ち、何で、何で……!)  自分で自分の気持ちをコントロール出来ない。違う俺は嫌な筈だこんな事されたくない筈だ、と言い聞かせるが段々と嫌悪の気持ちが塗り替えられていくのがわかる。遠くなった光景から、『俺』がこちらを見て…………笑った気がした。 (‼)  その笑みの意味を理解したくなくて反射で目を瞑り、俺の意識はまた暗転した。 ◆  目を開くと、俺の顔を怪訝そうに見ているタツヤさんの顔が見えた。 「おいおいこれだけで気絶したのかよ、反応ねえとつまんねーんだけど」 (今、のは……)  何だったんだろう、と思った。  まだ何か喋ってるタツヤさんは不機嫌そうに俺から視線をそらして、ドアの方を見ていた。それが何だかとても嫌だった。 (こっちを見て欲しい) 「たつ、やさん……」 「あ? 何だよ」  呼びかけると不機嫌そうだが此方を見てくれた。その視線が俺を捉えてくれている事実にうっとりしたまま、思った事が口から飛び出した。 「もっと、欲しいです、タツヤさんが」 「は?」  タツヤさんは目を見開いて驚いていた。何で驚くんだろう、と疑問に思った時、ようやく俺も自分の発言に驚いた。 「あれ……? 俺、今、なん、て」  まるで自分から誘うような言葉を口にしてしまった。信じられなくて呆然とする。 「……思い出したのか?」 「え、思い出した……? あ、さっきのは過去の記憶……?」  シュンゲツさんから告白を受けた時もあった記憶の想起、それがまた起こったのだとようやく分かった。分かったと同時に、自分の精神状態が思い出す前とは何かが確実に違っている事にも気付いた。何かが、とてもまずい気がして冷や汗が出てきた。しかし。 「よくわかんねーけど思い出したみたいだなあ?」 「あ……」  タツヤさんが楽しそうに笑っているのを見て、心臓が大きく高鳴った。 「なあ、俺の事好きだろう?」 「それ、は……」  今までの俺だったら即答出来た。好きではない、と。しかし喋ろうとしても胸の高鳴りが邪魔をする。否定の言葉を言いたくないと心が拒否していた。  続く言葉を紡げなかった俺を見て、タツヤさんは嬉しそうにしていた。 「へえ、なるほど。否定が入らない。さっきまでのお前と違って明らかに俺への欲があると見える」 「おかしい、です。おかしいです、何だよ、これ。俺、あんな痛そうだったのに苦しそうだったのに、とっても気持ち良くて、何だよ、何だよぉぉぉ……‼」  自分の先程までの嫌だった逃げたかった気持ちと、もっとして欲しいもっと酷くして欲しいという今の気持ちが混ざって、頭がおかしくなりそうだった。目からも涙が溢れて大泣きしてしまいそうになる。 「おい、面倒だから混乱するなよ」 「痛っ……!」  左頬を叩かれた。涙は衝撃で止まった。怖かった。しかしそれは叩かれた事ではない。叩かれた事よりも、タツヤさんの機嫌を損ねてしまったかもしれない事が恐ろしかった。 「あ、ごめ、ごめんなさい、ごめんなさい嫌いにならないで下さい」  俺は必死に謝った。これでタツヤさんに見限られてしまったら俺は生きていけない。……どうしてそう思ってしまうのか、何故そうもすがりついてしまうのか疑問に思わない訳ではないが、そんな疑問はどうでもいいと跳ね除けてしまうくらいタツヤさんが欲しいという気持ちが大きかった。  おかしい、と思うと同時に誰かの顔が浮かんだような気がしたが気にする余裕は無かった。今はタツヤさんに許してもらわないといけないのだ。 「……」  タツヤさんは俺をじっと見ている。 「僕の事どんなに乱暴に扱っても良いですから、貴方の手で気持ち良くして下さい」  うっとりとした顔で、涙を流しながら俺は微笑んだ。  それを見て、 「……ははっ」 タツヤさんは笑った。 「おかえり、トモ」

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