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季節外れの台風-10

「これから、どうするの……?」 「どうって、見たんでしょ? 先輩と付き合うから、先輩の家に行くよ」 「……そっか、忘れてたかもしれないけど、俺、週末実家に帰るんだよね。3日いないんだ。もう会いたくないのなら、その間に荷物まとめて」 「そうだったっけ? じゃあそうする。とりあえずもう一緒にいるのも気まずいし、もう少ししたら出るね」  自分が俺にしたことの重大さを少しも分かっていないのか、どうでも良いのか、彼女は最後まで誠意を持って俺に向き合うことはなかった。  目をまともに合わせることもなければ、動揺して声が震えることもない。座り込む俺に、上から強い言葉を浴びせるだけ。  航ちゃん、と俺の名前を呼ぶ声に愛情は感じられない。  ああ、俺にかかっていた魔法も解けたようだ。今まで彼女から感じていた愛情は、俺の思い込みだったのかもしれない。  こんなに呆気なく終わるんだ。  そんなこと言わないでよ、今さら言われても困るよ、考え直してくれないかと、そんな話になることもないまま。    バタバタと出かける準備をする彼女が立てる音を聞きながら、未だ座り込んだままの俺は、気づかれないように少しだけ泣いた。  無意識だろう、彼女が漏らした鼻歌がトドメを刺した。  俺が守りたかったこの居場所は、とっくになくなっていたんだな。

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