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季節外れの台風-12
抱きついたままの小春を引き離すと、やっと靴を脱いで家に上がった。懐かしい香りがして、帰ってきたんだと強く実感した。
この家で1日でも過ごせば気にならなくなるけれど、一人暮らしを始めて以降は、実家の匂いがどこか特別に感じられる。
真っ先に和室にあるじいちゃんたちの仏壇に手を合わせ、それからリビングへと向かう間、小春がずっと俺の後ろをついてきていた。
何だ? いつもはリビングで待っているのに?
「ねぇ、航兄さ、華さんとさ……」
おそるおそる、といった様子で、小春が華の名前を出した。
何の勘なのか、さっきから小春がやたら華のことを気にしているような気がする。
「華が、なに……?」
「この間、たまたま見かけて……」
「え?」
そのやりとりが聞こえたのか、母までやってきて、「華ちゃんやっぱり無理だった?」と尋ねられた。
今日俺の実家に来ることができなかったという意味の“無理だった”ではなく、今後一切無理だと話しておかなければ、これからも何かあるたびに「華ちゃんは?」「どうしてる? 元気?」なんて質問をされ続けてしまうのだろう。
関係修復が見込めるのであれば、いったんは嘘をついて誤魔化しても良かったかもしれないけれど、あんなことを言われてしまえば彼女にもその気はないだろうし、俺も絶対にできない。
「……実はさ、別れたんだよね」
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