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一体なんなんだ?-8

 ……待っ、て。……ええ? 「ふっ、間抜け面だな」  間抜け面ならよほど寝ている演技がうまいってことだな。俺、演技で賞もらえるんじゃね? と、目を瞑ったまま、頭の中で色んな考えが浮かんでは消えていく。  翼が俺に懐いているのは知っていたし、だからこそ俺と暮らしたがっているのも俺なりに理解したつもりだったけれど、もしかして意味が違ったのだろうか。  間抜け面だなと、その言葉自体は何のポジティブな意味も持たないけれど、そのときの翼の声色が聞いたことがないくらいに優しく穏やかだった。  ……なんかこう、愛おしさを含んでいる、みたいなさあ。 「……はあ?」  自分で考えておきながら、何だよそれとツッコミたくなり、気づけば声が漏れていた。慌てて口を押さえ、ゆっくり振り向くと、そこにはもう翼はおらず、俺がひとりで混乱している間に寝室を出ていたと分かった。  ガバッと起き上がり、スマホに手を伸ばすと、すぐにカメラを起動させた。自分の顔を確認すると、いつもの浮腫んだ髭面に加え、翼の熱が移ったみたいに顔が赤くなっている。 「何を照れているんだ、俺は……!」  何とも言えない気持ちで全身がムズムズし、俺は自分の太腿を思い切り殴った。  ガキにキスされたくらいで、俺は、何を……! と殴り続けるうちに、あれはキスなのか、いや、キスじゃないなら何……? と、また答えのない問いで脳内を支配されてしまう。

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