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一体なんなんだ?-16

 まだ彼女に未練があって、というよりも、穏やか日々を自分だけが幸せと感じていたことと、何よりも好きだった彼女は俺といながらも裏切り行為をしていたこと、積み重ねてきた日々が呆気なく壊れてしまったことへの絶望が大きいかもしれない。    慌ただしい日々が流してくれていたと思っていたそれは、どこにも行かずにずっと俺の奥底に残っている。  それが、翼の「色々あった」というその言葉に、急に引っ張られた。  こうしてみると、環境が変わったことに振り回されていただけで、傷が癒えたわけでも忘れられたわけでもなかったんだ。 「航大……?」  目の前の翼が、俺を優しく見つめている。 「あ……」  彼女に必要ない人間だと言われたような感覚を抱いたけれど、こうして翼に見つめられると、少なくとも翼にとっては俺は必要な人間になれていると思える。  安心感なのか何なのか分からない。でも、心がじんわりと温かくなったような感覚が確かにあった。 「航大、思い出しちゃった? ごめんな」 「……う、う、」  みっともなく溢れ出る涙を手の甲で拭うと、いつの間にか翼が俺の横に立っていた。    赤くなるからと手を握られ、反対の手で優しく涙を拭われる。 「まだ彼女のことが忘れられない? 俺と暮らしてるのに?」 「忘れるとか、そもそもそんなことも思わないくらいに、考えないようにしていたのかも」  

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