49 / 186
一体なんなんだ?-19
「そうじゃなくて、心配になるし、俺も悲しいから」
「お前が、悲しいの? なんで?」
「それは言えない」
俺の頬から手を離した翼は、背を向けると、タオルを持って露天風呂へと歩き出した。
思わず追いかけ、翼の浴衣を掴むと、わざわざ帯を巻いていなかったからあっさりはだけてしまう。
肩が丸出しになり、別に恥ずかしがる関係性でもないのに気まずさを感じ、視線を逸らした。
「でもさ、言えないって、何かあるってことだろ? 何でもないって答えるんじゃなくて、言えないって言われると気になる」
浴衣を掴んだままでそう言うと、翼は俺のほうに向き直った。
俺から質問したのだから、顔を上げて話をするべきだとは思うけれど、そうしたら絶対に翼の裸が視界に入ってしまう。
どんな顔をしているかも分からないし、色々見たくない気持ちがあって、失礼だけれど頭を下げたままでいることにした。
でも、翼はそれを許してくれずに、俺の顎を掴むと、くいっと上げ、無理やり視線を合わせられる。
「航大は聞いた責任を取れるの?」
「……え? 怖い言い方するなよ。やっぱりもういい、風呂入ってこいよ」
さっきまでの温かで穏やかな視線ではなく、逃げられなくなるような、そんな目をしていた。
顎に手を添えられているだけなのに、身体が動かない。
怒らせたわけではないのだろうけれど、何を考えているのか分からない。
「……ごめん?」
「はっ、何で疑問系なんだよ。とりあえず入ってくるからゆっくりしてて」
ともだちにシェアしよう!

