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聞いてしまった責任-2

「どれだけ食べる? これくらいいけそう?」 「こんなに食べて良いの?」 「当たり前じゃん。航大のために作ったんだから」  翼のエプロン姿にもすっかり慣れたのに、こういう甘い言葉を言われると、それだけで緊張する。  これに関しては何か月経とうが慣れることができない。  俺のためって、大した意味はないはずなのに、何か言われるたびにキスを思い出し、勝手に特別な意味を含んだ言葉として受け取ってしまう。  俺はこんなに色々考えてしまうのに、翼はどうして普通なんだ? 「なあ、翼」 「なに?」 「お前さあ……」  余った分をタッパーに詰め、作り置き用に仕分けている翼のもとへ行くと、「ん?」と首を傾げられた。 「もしかして、もっと食べたい? 皿に盛ろうか?」 「……いや、違うんだけど。まあ、食べて良いならもう少しもらおうかな」  声をかけたものの、結局何も聞かずに、ただ食に欲張っただけに見える俺に翼は優しく笑った。 「航大、なんか今日可愛いな」 「……はあ?」  タッパーに箸を突っ込むと、「お代わり分としてテーブルに出しておくから」と翼は席についた。  俺もそれ以上何も言えずに隣に座ると、翼はよしよしと俺の頭を撫でる。  完全に子ども扱いをされていないか?  こうして何かと触れてきたり、ハグも多いけれど、翼からするとキスはこれらと同じノリなのか?   だから意識しているのは俺だけってこと? 「気に入ってくれたらまた作るわ。これけっこう簡単だったから」 「……まじでいつもうますぎる。また作ってくれたら嬉しい」  今日も何も言えなかったとそう思いながら、俺はありがたく料理をかきこんだ。

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