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聞いてしまった責任-8

「いや、中川もそっちに行ってくれたほうが壁みたいになってバレなくて良いかも」  納得してもらえそうな理由を探し、そう伝えると、「え? バレたくないの? 連絡入れたじゃん」と、まあそれはそう、という内容で返された。 「てか別に席かわってもらうほどじゃないんだよ。和田がノリノリだからそれに乗っただけで」 「えっ、そうなの? なんかごめん?」  と言いながら、和田は俺のすぐ横に立っていて、もう席を交代する以外の選択肢はないようだ。  できるだけ自然に、和田の横に中川が立つ。  というか、横に座るより正面のほうが顔が見えて良いのでは? と俺は思うけどね。  中川、お前面倒すぎ、という視線を向けると、彼はぺろっと舌を出した。  何も可愛くない。 「……いや、まあ、うん。翼が見えたほうが楽しいから良いかも。酒飲んだりしてないかなとか、そういうの見えたほうが良いし」  もうどうでもいいよと、若干疲れながら席を移動してみると、思ったよりも翼がはっきりと見えた。  顔を上げだけで視界に入る位置に座っていて、これはこれで良かったのかもしれないと思ってしまう。    正直、大学生らしい翼を見たことがなかったから、こういう場面を見られることは貴重なのかも。 「どう? そこけっこう見えるでしょ」 「見えるね」 「良かったね、高寺!」 「……はいはい、ありがとう」

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