70 / 186
聞いてしまった責任-19
「……どうしたんだよ」
「どうしたって、俺、散々やったじゃん」
それは否定できないけれど、でも俺が最後にやめてと言ったときには聞いてくれただろ?
「そうだけど……。出て行くのか?」
翼の手首を掴むと、顔を覆っているその手をどかした。
やっぱり泣いていて、ぼろぼろと涙が頬を流れている。
それを見ていると、どうしてか胸が苦しくなった。
「出て行くしかないじゃん。航大はもう、こんなことをした俺と暮らせないだろ」
さっきまで俺を圧倒していた翼が、なぜたか小さく見える。
散々なことをしておいて、今は肩を震わせて泣いているなんて、やっぱりガキじゃん。
「……何で暮らせないの?」
「何でって? 本当にバカじゃん。俺はなかったことにしてって言えないよ」
「なかったことにはできないけど、でも……」
俺だって何もなかったかのように振る舞うことはできないけれど、でもどうしてか、翼に出て行ってほしいと、そういう考えが浮かばない。
これがどういう意味なのか、それを考える余裕も、翼に伝える余裕もないけれど。
でも踏みとどまっていた翼を煽ったのは、彼の言う通り俺かもしれない。
全てを知った今なら、何があそこまで翼を刺激してしまったのか、理解できる気がする。
「……俺は、もっと欲が出ると思う。航大を好きな気持ちは止まらない」
「欲が出たらどうなるの?」
「航大に、俺のことを好きになってもらえるように頑張ると思う。このままじゃ終われないし」
ともだちにシェアしよう!

