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聞いてしまった責任-21

「何もしなければ、いいんじゃない?」  さすがにこの後に、俺に対して何かしようと思うような奴ではないよな? と、そういう意味で伝えたけれど、翼は無言で何も言わないでいる。 「何で黙るの? 何かするなら一緒は無理だから」 「……分かった、何もしないとは言えないけど、さっきみたいなことはしない」 「は? それ以外は何かしそうな言い方じゃん」 「キスくらいは許される? 航大だって、俺がキスしてるってずっと知ってたくせに言わなかったってことは、嫌ではなかったてことだろ?」 「都合よく解釈するな」  背中に触れていた手を離し、ひとりでリビングに戻ろうとすると、今度は翼が俺の手を掴み、引き止めてきた。   「頼むから許してよ。寝室も一緒が良い」  俺より少しデカいくせして、なんだか小さく見えてしまうようなそんな雰囲気で、目を潤ませながら「お願い」と言う。  実際にさっきまで泣いていた事実があるし、翼の目が湿っているのは当然のことだけれど、どうしてかわざとやっているのでは? とそんなふうに思えてきた。 「かわい子ぶれば、許されると思ってる?」 「えっ、俺のこと可愛いって思ってくれてんの?」  それなのに、翼にはそんなつもりはなかったようで、結果的に俺が自爆してしまったのかもしれない。  嬉しそうに口角を上げ、翼が俺を覗き込む。 「……だから都合よく解釈するなって」  もう一度翼の背中に触れ、今度こそ風呂場まで押し続けた。

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