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男前な彼-6
母さんに言われたら逆らえないからと立ち上がり、玄関に向かうと、「俺も行く」と翼がついてきた。
「じゃあ私も!」と小春も手を挙げたけれど、思わず翼の腕を掴むと、何かを察してか「ふたりで行かせて」と小春に伝えてくれた。
大人気ないけれど、車内での話もあったし、何となく気持ちが落ち着かないからこそ、こうしてふたりでいられる時間がほしかった。
「翼、歩きでも良い?」
「いいよ、ゆっくり行こう」
寿司屋は徒歩で行けるし、この時間帯は駐車場が混むからと、歩いて行くことにした。
翼とはひとり分の距離を保ったまま、でも視線だけは向けていると、それに気づいた翼がにっこり微笑んだ。
見ていたことがバレたと気まずさを抱えつつも、「家に着いてすぐのとき、小春と何を話してたの?」と、ずっと気になっていたことを尋ねた。
ふたりが仲が良いことも、仲が良いだけでそれ以上何もないことも、ふたり揃うなら俺の話だろうことも、分かってはいるけれど、それでもこうも分かりやすく排除されてしまうと傷つく。
こんな、拗ねるみたいなことみっともないかもしれないけれど、最近の俺は、翼の前でこういう気持ちをうまく隠せない。
「航大の話だよ」
「それは何となく分かってるけどさあ」
そういうのじゃなくて、もっと具体的な話を聞かせてくれよと思ったけれど、翼は穏やかに笑っているだけで、それ以上何も教えてくれなかった。
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