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男前な彼-9
「え、元々料理できたんじゃなかったのか?」
あれだけ手際良く料理して、作り置きまでしているのに?
固まる翼の顔を覗き込むと、うっすら汗も滲み始めた。そんなに動揺する話か?
「翼は料理はね、全然ダメだったけどね、受験終わってから急に頑張り出したのよ。航大くんに食べさせるためだったんだ」
謎が解けたかのように、納得した表情とリアクションで美香さんがそんなことを言う。
とうとう翼の額から汗が流れた。
「ふうん、頑張ったんだ?」
朝までは見えていない小春が、さらに追い打ちをかける。
「……もういいだろ」
ぼそぼそと呟いた翼は、今にも消えていきそうだ。
珍しく弱っているその姿に思わず吹き出してしまうと、「翼くんは航大に料理をしてもらってるとして、航大は翼くんに何をしてあげてるの?」と、目を細めた母さんが俺を見ていた。
「俺? 俺……? 確かに、翼に何してあげてるんだろう」
母さんに指摘されて考えてみたけれど、何一つ浮かばない。俺が翼の生活のためにしてあげていることって何があるんだろう。
今度は俺が固まってしまった。俺のために料理を頑張る翼に対して、何もしていない俺という構図ができてしまい、若干責められている感じすらある。
でも待ってよ。俺としては、同居を認めたことが最大の恩じゃないか?
華のことがあってすぐに、翼のことを受け入れるって、相当譲歩したと思うんだけど。
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