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男前な彼-16

「あ、やったんだ」  否定できる状況ではなく、そのまま顔を上げられなくなる。  どうしてこの言葉にだけ反応してしまったんだ俺は! 「キスしたならその次のステップもいけるんじゃない?」  和田がテーブル下で足を伸ばし、俺の爪先を靴で突く。声も聞いたことがないほどに弾んでいて、完全におもちゃにされている。 「……和田、それセクハラだろ。同期のそんな話を聞いて何が楽しいの」 「え、全部楽しい! そういう漫画貸そうか? 私持ってるよ」 「ネタとして扱うなよ」  BL漫画と同じにするな、こっちは深刻なんだ! と顔を上げてキレると、何も響いていない和田がキラキラとしたまだ俺を見ていた。  まさかこの手の話で盛り上がると思っていなかった中川が、若干引きながらも、和田の全てを受け止める! とでもいうように真剣に聞く姿勢を見せた。 「ヤるなら抱かれるほうなの? ビジュ的には高寺が抱かれるほうが良さそうだよね」 「だから何の話だよ!」  頼むからいい加減にしてくれと、そう叫んだとき、それまでペースを考えずに飲み続けていた酒のせいか、頭がふわっとしてきて視界が歪み始めた。 「高寺? 大丈夫?」  そういう心配をしてくれる優しさがあるなら、変な話を続けるなよと、イライラしながら頷いたけれど、段々と頭も重くなってくる。  少し遠くで、「お迎え頼まなきゃ」と楽しそうな声がした。

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