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男前な彼-19

「……交換しないで」 「え?」  まさか俺がこんなことを言うと思っていなかったからか、翼が驚いた声を出す。  和田はニタァと笑っていて、これを引き出すためにここまでしたのかと、理解したときには遅く、俺の恥ずかしさが膨れ上がるだけだった。  嵌められた……!  おかしいと思ったんだんだよ。和田はやっぱり交換するつもりなんてなかったんだ! 見抜けないであんなことまで言ってしまって、最悪すぎる。 「すみません、この人がダメって言うので」 「……う」  もう終わってくれれば良かったのに、俺と和田の真のやりとりに気づかないままの翼が、デレっとした声で和田に謝り始めた。  掘り返さないでくれよと思ったところで翼に伝わるわけもなく、全て判断をミスした俺が悪いんだ。  本当に最悪すぎる。 「もういいから行こう……」  何とか声を絞り出し、また翼にしがみつく力を強めた。    店から離れると、さすがに人目もあるからもう翼に下ろしてもらい、肩を支えられながら隣を歩いた。  何か言われたらどうしようとそればかりが気になっていたけれど、翼は満足そうに笑っているだけで何も言ってこなかった。    今日、「航大って俺のこと好きだよね?」と言われたら、うっかり頷いてしまったかもしれないのに。  「付き合おうか?」って言われたら、少し渋ってもそれも頷いたかもしれないのに。  迎えに来てもらっておきながら、何も言わない翼を不満に思いながら、ほんの少しだけ翼に寄りかかった。

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