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可愛いと思ったら負け-6

「そういう聞き方するな」  おそらく、俺が彼女と翼の距離感に嫉妬したり、知らないところで何かあったら耐えられないと、そんな答えを求めているんだろう。  絶対に言わないけどな。  俺は翼の脛を蹴ると、カートを押して先を歩いた。 「あ、待ってよ」 「知らねえ」 「俺誕生日だよ? お願いことなんでも聞くって言ったじゃん。同じペースで歩いてよ」 「お前が合わせろ」  何を言われても翼を無視して進み続けると、すぐに追いついた翼が、俺の服を掴み無理やり引き止めた。  カートの前の車輪が浮き、ガタッと音を立てる。  危ないだろ! と振り向いた瞬間、一瞬唇を奪われた。 「おまっ……」  何やってるんだよ! と周囲を確認すると、近くには誰もおらず、笑っている翼がいるだけだった。 「人はいないよ、大丈夫」 「そういうことじゃないし、防犯カメラには映っただろ!」 「見せつけちゃったね」 「もう黙れよ」  あまりにも調子に乗って許せないと思ったけれど、これ以上煽ると何をされるか分からない。 「航大、一緒に歩いてくれる?」  翼が俺の手に自分のを重ね、隣に立つ。 「分かったよ、歩くよ。お前怖すぎだわ」  俺は翼の歩くペースに合わせ、あれもほしいこれもほしいも全て叶えながら歩き続けた。

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