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どうしてこうなった-13
翼は何かを期待していたようで、自分でそう言っておきながら、顔をくしゃりと歪める。
素直になれない俺が悪いのかもしれないけれど、俺がそうできないことは散々見てきたし、知っているだろ?
「そしたら美香さんには自分から言っておけよ」
俺は鞄からお金の入った封筒を取り出すと、翼の胸に押し付けた。自分で下ろしたけれど、本当に渡すことになるとは思わず、その手が震える。
「何だよ、このお金」
「……お前が毎月払ってくれてたお金だよ」
最初は一緒に暮らす期間がどれだけ続くか分からなかったし、家事もしてくれているのに翼からお金をもらえないと、そんな気持ちで貯めていた。
でも、翼との生活が楽しくなって、長くなっていくうちに、貯まってきたお金を見ながら、これだけ一緒に暮らしてきたんだなと、実感をわかせてくれるものになったのに。
それを返すってことは、今まで積み上げたものにさよならするってことだ。
「はあ? 何で返すんだよ。いつか俺を追い出す気だったのか?」
俺の意図を知らない翼は、ひどく怒った様子でその封筒を払った。
地面に落ち、砂埃が舞う。
「……なわけねえだろ。でもお前がたった今、そのための金にしたんだよ」
封筒を拾い砂を払うと、翼の鞄の中へと押し込み、それ以上何も言いたくないからと翼に背を向ける。
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