翼と松山さんのデートの前日、珍しく小春から電話が来た。 　どうせ翼が何か言ったに違いない。 　その話はしたくないし、何も聞きたくないと、ずっと無視していたけれど、あまりにもしつこく、「あんた！　小春の電話に出なさいよ！」と母さんまで使って、出ないといけない状況に追い込まれた。 　渋々電話に出ると、『航兄、ふざけんな！』と、小春に怒鳴られる。 　……そっくりそのまま返しますが？ 　翼のせいで、きょうだい仲まで悪くなりそうだ。 『翼と喧嘩したの？』 「喧嘩というか、翼が出て行くって」 『でも、華さんが来たんでしょ？』 　そこまで聞いているのか。だからこそ、小春は俺が全面的に悪いと決めつけて、こうして電話をかけてきたのだろう。 「俺は呼んでないし、勝手に押しかけてきたんだよ。追い出そうとしたのに、翼が余計なこと言って、家に上がって良いよとか言うから、華も遠慮なく上がってさあ」 『それは翼が悪いけど』 　あのときの翼の言動を思い出すだけで腹が立ってくる。　 　俺は華を追い出そうとしたのに、それを止めて家に上げたのは翼だ。 　 「だろ？　翼はふたりでどうぞって勝手に出て行くし、華は部屋の中で復縁したいと喚きまくるし、あげく俺に飛びかかってきて押し倒されたところを翼に見られるし」 『はあ？　それは押し倒されるのが悪くない？　女相手に？』 「男女差で力はあれど、あのときの華の勢いは異常だったんだよ。それに俺は引き離そうと肩を掴んで押しただけだし」