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どうしてこうなった-22

「あの日、お酒を入れ替えた私に対してあの人が怒鳴ってきたときも、あの人を見ていた翼の表情も。……追い出されるかもって言っていたあの日だって。ただの幼なじみ、保護者的存在、そんなふうには思えなかったもん」  松山さんの言葉に翼が顔を上げる。そのタイミングで彼女も顔を上げ、一歩進むと、翼の手を握った。  翼は振り払うことなく、聞いている。さすがの俺も、それには何も思わず、ただこうして近いところから盗み聞くことしかできない。 「……今、もしかしたらつけ込むチャンスかもと思ったから、バイト帰りのあの日に、翼をデートに誘ったの。翼がメッセージを気にしてぼーっとしているのも分かってたし、私の話を聞いてないことも知ってた」  松山さんがまた、少しずつ俯いていく。初めて彼女を見たときは、大胆で自分勝手な子だと思っていたけれど、彼女なりに翼に本気だったのだと分かった。 「でも今日くらいは私を見てほしかった。1時間だけでも構わない。少しでも良いから時間をもらえない?」  期待を込めてか、松山さんはもう片方の手も翼のに重ねた。 「ごめんなさい。俺、どうしてもあの人と話さないといけない。今日を断ることを事前に言わなかったのは、松山先輩のことはバイト仲間として大切だし、これからも仲良くしてほしいから、だから直接謝りたかったんです。今日の少しの時間も、先輩と過ごすことはできません。本当にごめんなさい」  翼もその手に自分のをさらに重ね、深々と頭を下げた。

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