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溺れて沈む-3
俺の左手の薬指に、翼がキスを落として微笑んだ。
本当に結婚するみたいだと、そんなことを思っていると、「てかさ、これって、もう結婚だよね?」と、翼も同じことを考えていたようだった。
「……まあ、結婚はできないけど、俺はそのつもりで翼との部屋を探したし」
「はあ……、航大がそんなこと言ってくれるようになるとはね」
「もうそういうのいいから。俺だって、ちゃんとお前のこと好きだし」
いつになったら信じてもらえるんだ? と拗ねて見せると、翼はクククと笑いながら、俺を抱きしめた。
それを素直に受け取り、背中に手を回して抱きしめ返すと、耳を噛まれる。
少しの間があいてから、翼が「じゃあさ、抱かせてくれる?」と、耳元で囁いた。
「え? 今から……?」
「今日を初夜にしようよ」
「初夜とか言うな。それに俺、明日から仕事なんだけど」
翼と触れ合うこと自体はもちろん嫌ではないけれど、あの体力についていけるかが分からない。
「俺も学校だけど」
「お前の体力と俺のは違うじゃん」
「だったらなおさら早い時間からしたほうが良くない? 夜ゆっくりできるようにさ」
「来週じゃダメなのか? 引っ越してからすれば良いじゃん」
初夜だと言うなら、なおさら新居のほうが良くないか?
今週にするのも、来週にするのも、大きく変わらないだろ。
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