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02 僕に、愛されてみない?
打ち上げもお開きとなり、二次会を断って俺は家路についた。
なんだかテンションが下がってしまって行く気になれなかった。
──帰って、最近ハマってる乙女ゲームのキャラに癒されよう。
ちょっと意地悪で、クールなくせに、ふいに甘い言葉をくれる男キャラに夢中だった。
──よくよく考えたら、見た目は楓に少し似てるかもしれない。
……身長は、足りないけど。
そんなことを考えて歩いていたときだった。
「待って、みつ!」
後ろから声がして、振り返ると、楓が駆けてきた。
走ってきたのだろう、頬が赤くて、肩で息をしている。
「楓? 二次会は?」
「やめた。……途中まで一緒に帰ろ?」
にっこり笑うと、楓は少しだけ首を傾げた。
身長差のせいで自然と上目遣いになるのが、
なんというか……羨ましいくらい可愛い。
「……ん」
「やった!」
短く返して、俺たちは並んで歩き出した。
「……ねぇ、みつ。さっきの話だけど」
「ん?」
「1年生に告白されたってやつ」
「……なに。楓も興味あんの? なんか意外」
楓は普段そういう話に深入りしてこない。
だから居心地が良かったのに、今日はやけにしつこい。
「別に。興味があるわけじゃないよ」
「は? じゃあ何だよ」
口調が強くなっていたのは、わかってた。
楓は悪くない。
それでも、なんだかイラついてしまった。
ふと気づくと、楓は歩みを止めていた。
「……楓?」
「──そんな、よくわかんない女の子の告白なんて、受けない方がいいよ」
「あ……うん?」
いまいち楓の真意がつかめなくて、間の抜けた返事をしてしまった。
そのとき──
「そんな子より、僕と付き合ってよ」
「……は?」
開いた口が塞がらなかった。
楓からの、まさかの告白。
楓のことはずっと“憧れ”としては見ていたけど、
恋愛対象として見たことなんて、一度もなかった。
他の男や女だったら、きっと舞い上がってる。
でも──
「……悪い、楓。俺は……お前と付き合えない」
正直に、はっきりと口にした。
「楓はすごくかわいいと思う。……でも俺、期待に応えられるような男じゃない」
楓はきっと、俺に“愛されること”を望んでいる。
でも──俺には、それができる自信がない。
過去に付き合った人とも結局はうまくいかなかった。
あの1年生の子の告白も、ちゃんと断ろう。
もう、誰の期待にも応えたくない。
「……みつ。みつは、何か勘違いしてる」
不意に、楓の手が俺の手を握った。
少し離れていたはずなのに、いつの間にこんなに近くに──
びっくりするほどすぐ傍にいた。
細くて白い指。キラキラ輝く爪先。
華奢な見た目なのに、握る力は想像以上に強かった。
「……楓……?」
握られたところが、じんわりと熱い。
街の喧騒が嘘みたいに遠のいて、世界に俺と楓だけになったみたいだった。
不意に、楓が顔を寄せて、耳元で囁いた。
「みつが無理して周りに合わせてるのも、本当は愛されたがってるのも──僕、ずっと見てたよ」
「……え?」
息が、止まった。 心臓が喉までせり上がってくるような衝撃。
なんで、こいつが。俺の一番奥にしまい込んで、鍵をかけたはずの願望を。
見上げた楓の顔に、もういつもの人懐っこい笑みはなかった。とろんと甘いはずの瞳が、熱を帯びて俺を射抜いている。
「僕は、他の人とは違うよ。みつのこと、かわいがりたい。──抱きたいんだけど、ダメかな?」
「……なっ……」
指が、俺の指に強く絡みつく。逃がさないとでも言うように。
「僕なら、みつのこと、ぐずぐずに甘やかして、大切にする自信がある」
いつもの舌ったらずな声とは違う。
少しだけ低くて、鼓膜を直接震わせるような甘い響き。
ゾクリ、と背筋が震えた。
「僕に……愛されてみない?」
どうしよう。
突然男の顔を見せた楓に戸惑いと、少し期待してしまっている自分がいる。
握られた手を振り払って逃げることだって、できたはずなのに。
──できなかった。
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