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03 お姫様になる準備 ※R18

「……みつ、お口開けて?」 「……んっ、ふ……っ」 どうやってここまで来たのか── 正直、あまりよく覚えていない。 気づけばラブホテルの小さな部屋の中。 ふたり、シャワーを浴びたあとの火照った体にバスローブを引っかけ、 天蓋付きのベッドの上で、唇を重ねていた。 ラブホテルなんて、ただヤるための場所。 なのにこの部屋は、まるでおとぎ話の中みたいだった。 白いレースのような装飾があしらわれた淡いピンクの壁。 シャンデリアからこぼれる光が、天蓋のレースに反射してきらきら揺れていた。 猫足のソファや、繊細な彫刻が施された鏡台やライト。 昔読んだ絵本の、お姫様の部屋みたいに甘やかな空間。 でも、それ以上に甘かったのは楓のキスだった。 舌が絡むたび、喉の奥で小さく声が漏れる。 深く、優しく、でもどこか意地悪に。 触れられるたび、頭が痺れて、もう何も考えられなくなる。 ──こいつ、こんなにキス上手かったんだ。 心臓がばくばくと音を立てるたびに、楓の体温がじわじわと移ってくる気がして、 俺は知らず知らずのうちに、シーツをぎゅっと握りしめていた。 「んっ……」 キスは次第に、唇から首筋へと落ちていく。 熱い吐息がくすぐるように肌を這って、 はだけたバスローブが肩からふわりと滑り落ちて上半身が露わになる。 「……みつって、おっぱい感じる?」 「はっ? ……え、わ、かんね……っ」 息がかかったところが、じんわりムズムズして、答えた声が自分でもわかるくらい少し高くなる。恥ずかしくて、どんどん顔が熱くなった。 「ふぅん。……じゃあ試してみよっか」 そう言うと、楓は俺の平らな胸に甘えるように擦り寄って、乳首を食む。はむ、はむっ、と可愛らしく唇を使って、右を吸い付きながら左は指先で弄ぶ。 正直、気持ちいいっていうより、ただくすぐったくて、思わず笑い声が漏れる。 「ん……や、そこ、くすぐったい……」 「くすぐったい?それならこれは?」 「……っあ!」 急に、舌先を使って乳輪をゆっくりと大きくなぞり始めた。ざらりとした感触がダイレクトに伝わって、さっきまで幼子のように甘えてた楓が、急に大人の顔をする。その変化に、ぞくりと恐怖にも似た予感が走る。 ……これ、やばいかも。 「……っ、あ!……楓っ……そんな、舐めん、な……!」 情けない声が出てしまう。楓は三日月みたいに目を細めて笑い、その間も舌を止めない。狙いは、中心で震えている乳首だ。 まだ触れられてもいないのに、舌先がそこへ向かっていくのがわかって、想像しただけで息が荒くなる。勝手に追い詰められて、頭が真っ白になる。 そんな俺をあざ笑うように、ゆっくりと近づいてきて── 「ひっ……ああっ……!」 舌が乳首に触れた瞬間、全身に電流が走ったみたいに震えた。ねっとりと舌が絡みつき、ちゅぽっ、と音を立てて吸い上げられる。 快感に声が抑えきれない。身体をのけぞらせた拍子に、楓にねだるように胸を突き出してしまう。腰がズクン、と疼いて、下半身が熱を持つ。 「かわいい。みつ、気持ちいいんだ?」 「あ……ちが、っ」 「嘘だぁ……違わないでしょ?」 素直になれない俺を諭すように、楓は今度は左も口づけた。唇と舌で散々愛され、胸元はもうぐずぐずに敏感になっていた。 「はぁ、ん……っは……」 全身が蕩けるように力が抜け、シーツに沈む。赤く熟れた乳首は、触れられた余韻でまだぴくぴくと震えていた。 「おっぱい、気持ちよかったね。……あれ、大変!みつのここ、泣いてるよ……」 「は、え……?ちょ、っあ!」 楓の人差し指が、張り詰めていた分身をそっと撫でた。先走りがとろりと糸を引き、指に絡みついた。 あまりに卑猥で、頭が真っ白になる。 「あらら、涙止まらないね?よしよししてあげなきゃ……」 気づけば楓は俺の足を割り開き、熱を帯びた吐息を俺の中心に落としている。 「あ、楓っ、ちょっと待……っ!」 言い終える前に、熱く濡れた粘膜が先端を包み込んだ。 震えるほどの快感に、声が漏れそうになる。必死で口を塞ぐけど、舌が鈴口に触れるたびに甘い痺れが腰の奥を突き上げる。 「……んっ、ふ……っ」 こんなに気持ちいいの、知らない。 過去に何度か彼女にしてもらったことはあったけれど、涙が滲むほど強烈なのは初めてだった。 楓は唇を離さず、舌で形を確かめるみたいにくびれを這い、茎をゆっくり撫でる。 胸を愛撫された快感も合間って、もう、限界がすぐそこまで迫っていた。 「なぁ、楓っ……も、出るから、離せよ……っ」 途切れ途切れの声に、楓は一度口を離して言った。 「いいよ、このまま出して」 「はっ……?」 「僕の口に、全部ちょうだい」 あまりにあっけらかんとした声に、面食らった。 告白されたとはいえ、友達の口に出すとか、恥ずかしすぎる……! なんとか抵抗を試みるも、楓の口内の熱に頭が溶けて、出すことしか考えられない。 快感の波が押し寄せて、思わず楓の綿毛のような髪を掴む。 「楓っ、それ、やばいから……っ、あ、ああっ!」 訴える声と裏腹に、引き寄せる手に力が入る。 うっすら開けた視界の先で、楓が上目遣いに俺を見つめていた。 口内に感じる舌の柔らかさと視線が絡み合い、甘い痺れが一気に全身を駆け抜ける。 「……んっ、あ、ああっ!」 脈打つ快感の波に身を委ねる。 放たれるものを、楓はひとしずくも逃さず、口の中で受け止めた。 すべてを吐き出したあと、身体の芯に痺れが残り、俺は力なくベッドに倒れ込んだ。 荒い息を整えていると、ふと視界に入った楓が、コクリ、と喉を鳴らして俺のものを飲み込んだのが見えた。 「は、え……? お前……飲んだの……?」 息も整わないまま問いかけると、楓はまるで甘いカクテルを味わったかのように、にっこりと笑った。 「うん。……結構濃かったね。出したの、久しぶりだった?」 「は、っ……!? おまっ……最低だっ! デリカシーなさすぎ!」 羞恥が一気に駆け上がり、力の入らない拳をどうにか振り上げて抗議する。 けれど楓は涼しい顔のまま、俺の手首を簡単に押さえ込み、そのまま唇を重ねてきた。 「……んっ、ふ……っ、あ!まずっ!」 反射的に口を開けてしまった俺が悪い。 楓の舌が絡んで、さっき自分が出した味が伝わってきた。 青臭くて、苦い。とても飲めたもんじゃなかった。 「あは。みつの味なのに」 天使みたいな顔で、余裕綽々に笑う楓。 ……むかつく!! でも、ちょっとだけ、可愛いと思ってしまった自分が一番悔しい。 意識が上の空になっていると、突然後ろの窄まりにそっと触れられ、びくりと腰が引けた。 さっきまでふわふわとした快感に浸っていたのに急に現実に引き戻されたみたいで身体がビシッと固まった。 「え、っと……」 「こわい?」 楓の問いかけに、ぎこちなく頷いた。 興味がなかったわけじゃない。 AVを見ていても、自分はいつも女優側の気持ちで観ていた。 快感に押し倒されて、翻弄されて。――あんなふうに、攻め立てられてみたいって、どこかで思ってた。 男もお尻で感じられるってことは知ってた。 けど、それを知ったら、もう女の子の好意には応えられなくなるんじゃないか。 “普通”じゃなくなるんじゃないか。 そう思って、踏み出せずにいた。 でも……楓となら、もしかしたら―― 不安と期待が頭の中でせめぎ合っていた。 そのときだった。 ふっと、楓の身体が離れた。 「……みつ、もう寝よっか」 「えっ……?」 やさしくて、ほんのり甘い、いつもの楓の声。 さっきまでの雄の雰囲気はすっかり消えて、笑ってるのに、どこか寂しそうだった。 「……わかってるよ。僕のこと、恋愛対象として考えられてないの。でも、告白した時、みつがついて来てくれて……エッチできるのが嬉しくて、舞い上がっちゃったんだ」 そう言って、楓はちゅっと額に軽くキスを落とした。 「強引に進めてごめん。……怖かったよね」 その動作すらも愛おしくて、やさしいのに――それが、「ここで終わりにしよう」っていう合図のように感じた。 その瞬間、胸の奥が、ひゅうっと冷たくなる。 (……終わり? これで?) 今後もう、触れてくれないの? だって、俺のことを「抱きたい」って、「愛したい」って―― そんなふうに言ってくれたの、お前だけだったのに。 告白の答えは未だ出せていないけど、このまま終わるのだけは嫌だ。 それだけは強く思う。 お願い、置いてかないで。 「トイレ行ってくるから、みつは寝ててね」 そう言って立ち上がろうとした楓の腕を、思わず掴んでいた。 「ま、待って……」 「……みつ?」 「え、っと。」 楓が振り返る。 うまく言葉が出てこない。でも、楓は急かさずに、じっと待ってくれた。 ……ほんとに、優しいやつ。 なんで、俺なんかのこと、好きになったんだよ。 「……続き、しよう。やめなくていい」 「ううん、だめ。みつ、無理してるでしょう。セックスって、無理矢理やるもんじゃないよ。僕が言うのもあれだけどさ……」 「無理なんかしてない!」 思わず声が上ずった。 でも、それくらい言わないと、楓が離れていきそうで怖かった。 「確かに、楓のこと……友達としか見てなかった。 可愛くて、みんなに愛されてて、俺の憧れだった。……今も、恋愛感情があるかって言われたら、正直わからない」 楓は何も言わず、ただじっと俺の言葉を受け止めていた。 「でも、嬉しかったんだ。 “可愛がりたい”“甘やかしたい”って――そう言ってくれたの、楓だけだったから。 ずっと俺が望んできた言葉だったから」 言葉が詰まりそうになって、一度深呼吸する。 「だから……俺のこと最後まで抱いてください。楓のこと、好きになれるように試させて…ください。だめ?」 自分でも思う。 優柔不断すぎる。都合が良すぎる。 楓の好意に甘えてるだけなのかもしれない。 でも、それが――今の俺の、全部だった。 しばらくの沈黙のあと、楓が小さく、ため息を吐いた。 「もう……せっかく逃げ道、用意したのに」 「う……」 「……気持ち悪くなったり、痛みに耐えられなくなったらやめるよ。ちゃんと言ってね」 「……ん」 こくりと頷いた。 それだけが、やっとだった。 今まで求められる役割のまま、流されて生きてきた。恋愛ですら。 だけど今、俺は確かに――自分の意志で、この人に、抱かれようとしている。

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