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第9話 最高の夜明けを過ぎても①

「まだ、夢の中にいるみたい」  発表会打ち上げの帰り、璃空とポツポツとした街灯が灯る薄暗い道を歩きながら悠翔が言った。  中年仲間からの無理な晩酌のお誘いを未成年なのでと断り続けて一滴も酒は入っていないのに、足下が時折おぼつかなくなる。  その悠翔とつないだ手にちゅっと唇をつけて、璃空は家路を二人で歩く。打上げはスタジオのある雑居ビルの一階にある居酒屋と決まっている。そこでみんなと歓談する間中もずっと手を握ったままでいた。 「俺たちの出番が終わったあと、萌子ちゃんが控え室にきてくれてたの、知ってた?」 「来てたの?」 「それも覚えてないか。俺、後片付けがあったから、ちょっとの間みててもらったんだよ、悠翔君のこと」 「え……覚えてないなあ」 「なんか、魂抜けてるけど大丈夫なの? って聞かれた」  璃空はははは、と笑う。実際一人にしておいたらどこへ飛んでいってしまうかわからないほど悠翔はダンスの興奮と拍手喝采の感動で茹だってしまっていた。  萌子は別れ際、璃空から離れた本当の理由を教えてくれた。 『だって璃空君、二人で会話しててもいっつも悠翔が悠翔がって言うし、その時の顔がすごく楽しそうなんだもの』  彼女は薄々璃空の意中が自分ではなく悠翔なのだろうとは気が付いていた。  ただ本人が全く気が付くことなく、ぽっかりとあいた心の穴に代替品を詰め込んで満足しようとしてできていないので、あほらしくなって身を引いたとのことだった。 『おやつみたいに消費される女の一人になるなんてまっぴらごめんだったの』  そんな彼女だったから、璃空と悠翔のワルツを見たときに、本当にほしかったハッピーエンドを二人が手に入れたと感じて、涙が出たという。 「褒めてたよ。二人とも、素敵だったって」 「新崎君が、じゃないの?」 「ううん。二人が、って」  顔を見合わせてふふふ、と笑い合う。悠翔は酔っ払ったような千鳥足で璃空に寄りかかった。それを支える璃空の顔はニコニコと緩みっぱなしだ。  イベント後からあまりにも悠翔の様子がおかしいので、二次会で佐々木は誰かに車で寮まで送ってもらうように提案してくれた。だが悠翔は断った。 ーーーーー今夜は新崎君の家に、泊まるので。  それがあまりに嬉しくて、その後からは璃空の方もアルコールなど一滴も入っていないのに、なんだかずっとふわふわしたままだった。  悠翔は璃空をちらっと上目遣いで見る。  視線が合う。  璃空は穏やかに目を細める。  ずっとつないだままの手にどちらともなくきゅっと力がこもった。

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