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第9話 最高の夜明けを過ぎても②
璃空の住んでいるハイツに着く。
深夜だというのに内廊下に帰りに寄ったコンビニエンスストアのビニール袋のがさがさという音と、がちゃがちゃという鍵音が煩く響く。
璃空としては冷静になっているつもりなのだが、今からの長い夜への期待で興奮して手元が震えていた。
やっと鍵を開けて悠翔を先に誘う。かける言葉はいらない。赤い顔をして俯いた悠翔は一瞬躊躇ったが、先に中へ入った。
璃空は後ろ手で扉を閉める。ばたん、と外界と二人の夜を完全に隔てる扉の音がして、廊下の外灯の明かりが失われた玄関先は真っ暗だ。そこでもう璃空はもう我慢ができなくなった。
悠翔を後ろから抱きしめる。
着替えるという余力もなかったせいで彼のトップスはワルツの時に着ていたウイングカラーのシャツだ。ダンス中二人を包んでいたシャルドネ&ジャスミンティーに似た華やかなミドルノートの匂いはもはや遠く、今は静かな月夜を思わせるムスクのような残り香 がかすかに感じられた。
璃空は悠翔の項に顔を埋め、鼻から大きく息を吸う。悠翔の汗と混じって、甘くて切ない匂いで胸が締め付けられた。
「悠翔君……」
「逃げたりしないって。まずはほら、靴脱ごう」
言葉だけなら理性的な台詞だが、悠翔の声は柔らかく蕩け、かすかに震え、吐息のような呼吸は浅くて熱い。
後ろから璃空が顔を近づけると、悠翔も首を傾ける。
キスをした。ちゅ、ちゅっという軽い唇だけの触れ合い。それを何度も繰り返しながら、心音が加速していく。
ムードは無駄だ。
服は邪魔だ。
電気をつけるのももどかしく、キスで繋がり合ったまま、もだもだと二人とも靴を脱ぎ落す。お互いがお互いのマフラーを引き抜き、ジャケットを引き下ろし、ウエストを緩め、ボトムを廊下へ投げ捨てる。身軽になった分だけ部屋の奥へ進み、トップスと下着になった段階でコンビニの袋はベッドサイドに投げおいて、大きなベッドに二人で抱き合いながらダイブした。
すぐに荒い呼吸で璃空が悠翔にのしかかる。
「本当に、俺が抱いていいんだよね?」
「僕は……抵抗しようと思ったら、君より全然力が強いんだよ。それがこうやって組み敷かれてるんだから……………………わかってよ」
言葉尻は暗闇に溶けるように消える。それが悠翔の赤らんだ顔を想像させて璃空の中心で血潮が滾った。
シャツはそのままにはち切れんばかりに豊満な胸に荒々しく顔を埋めつつ、正直な手がずっと求め続けた肉付きのいい腰を撫でる。
その指先が触れ慣れない違和感を覚えて璃空は動きを止めた。
膝立ちになってベッドライトをつける。淡いオレンジの光に悠翔がトロンと蕩けた顔で力なく横たわり、シャツが乱れてボタンが外れた隙間から胸の谷間が見えている。それだけでも十分セクシーだったが、下着の上にかかるシャツの裾を止めるシャツガーターが、肉付きのいい太股に少々食い込み気味に巻かれている。
震える指先で軽い伸縮性のある黒い紐を軽くぱちん、と弾く。ぴくん、と悠翔の体が小さく跳ねた。
脳天を、何かが突き上がっていくような衝撃を璃空は感じた。
「の゛お゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛~」
璃空は顔を押さえてその整った顔には到底似つかわしくない怪物のような低いうめきを上げる。膝立ちになった璃空の浮きたった太股の間ははっきりかつ高々と下着を押し上げて、不随意にピクピクと暴れていた。
「ちょちょちょ、ちょっと待って。情報量が、情報量が多すぎる。可愛いセクシーが大洪水。俺のアソコが破裂しそう」
「あ、ほんとだ」
悠翔はゆっくりと身を起こすと、張り詰めた璃空の股間にするっと肉厚の手で触れ、器用な指で悪戯な刺激を与える。今度は璃空の体が小さく跳ねた。
「あん……っ、じゃなくて! あざっとい! 悠翔君! あざとすぎる」
「一回抜いとく?」
悠翔は小首をかしげてそう尋ねると、猫のように四つん這いで璃空の側に近寄る。彼の顔が足の付け根に迫り、じわりと色が濃くなった璃空の下着の上にちゅっと唇をつけた。
「甘い……好き……匂いまで、男前だね。璃空君」
ふすふすと匂いを嗅いで、はふっと出た吐息が敏感になった興奮の証をくすぐる。淡いオレンジの光の中、とろけ切った視線で悠翔が上目づかいに見るものだから、理性の糸がぷつん、と切れる。その音を璃空は耳の奥に聞いた。
下着のままで悠翔の口元に腰をぐいっと押し付ける。
「舐めて。お願い。上からでいいから」
璃空の甘えたような声色での命令に、悠翔は抵抗しない。はぷっと咥えてじゅるじゅると、唾液と璃空の我慢がしみ込んだ布地ごと彼自身を愛おしく慰めた。
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