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第9話 最高の夜明けを過ぎても③

 いい匂いがして璃空は目が覚める。布団から猫のようにするっと抜け出ると、悠翔の姿はベッドになかった。  彼はキッチンに立っていた。前日の朝に脱ぎっぱなしにしていた大きめのスウェットの上だけで、太股の途中から下は裸足だ。 「おはよう。目が覚めた?」 「うん」  腹がぐうっと鳴った。目覚まし時計を見るともうすでに朝という時間ではない。カレンダー上の休日は悠翔にとっては朝から労働日ということが多いのだが、今日は一日休みをもらったという。ダンスをしている事をバイト先にカミングアウトして、翌日を休養日にさせてほしいと頼んだからだ。それが認められた背景に、萌子の助けがあった。  璃空はゆるゆると起き上がってベッドサイドに座る。昨晩は身体的にはもう一滴も出ないほど思いの丈を悠翔の中で吐き出したのに、気持ちだけがとにかく貪欲に足りないと求めすぎて二人揃って気を失うように眠ってしまった。  当然今は裸だ。脱ぎ散らかした衣類は先に起きた悠翔によってかき集められていて、いくつかは現在進行形で稼働している洗濯機の中にあった。  璃空はぼんやりとして頭をかくと、全裸でクローゼットの方へ向かい、中から下着を取りだしてゆるゆると足を通した。次に長袖のTシャツを頭からかぶる。その姿にキッチンから悠翔が声をかけた。 「洗濯機、勝手に回したけどいい?」 「あ、うん」 「下着の替えがないからさ、洗って乾燥かけないと、僕外に出られないし」 「ああ……うん」  仕上げた卵料理を皿に盛り付けてははは、と悠翔が笑う。  対する璃空は昨夜のベッド上における乱痴気初夜に頭がまだよく働かなくて返事がボンクラになる。しかしベッドの下に落ちていた黒い紐を拾い上げたところで急激に意識が鮮明になっていった。  シャツガーターだ。  昨夜はこれをつけたままで致した。悠翔の下着をベルトまで引き下げて、そのまま彼の肉厚のお尻を思うがまま満喫した。  悠翔が歓喜と快楽のうちに穴という穴からだらしなく体液を垂らし、シャツも下着もドロドロになった。それをはぎ取ってベルトとともにベッドの下に投げおいたはずだった。 「と、なると……」  璃空はバッとキッチンの悠翔を見る。  下着もシャツも洗濯機の中だとするなら、彼は今何を履いているのか。というよりそのスウェットは璃空の着慣れた4Lサイズのトップスなのだから、今の状態は「裸エプロン」ならぬいわゆる「裸彼スウェット」というやつなのではないだろうか。 「…………っ!」  昨夜散々満足して力なく萎えたはずの璃空自身がぎゅんと活力を取り戻して立ち上がる。堅く押し上がった新しい下着姿で璃空は悠翔の背後に迫ると、彼を後ろから抱きしめる。背中に当たる饒舌な身体反応を同性の悠翔がわからないはずもない。 「駄目だよ……危ない。それにおなか、すいてるんだろ?」  優しく囁くように悠翔は言った。 「今は悠翔君が食べたい」  右腕一本で悠翔の胸のあたりを捉えたまま、悪戯な左手で太股のあたりを撫でる。小さく喘いだ唇をキスで塞いで更に左手が太股の裏側を進む。プリッとつり上がったお尻と太股のはっきりとした境界が豊かな尻たぶとなって、双丘の間に深い谷間を作り出していた。 「ぁ……だめ……」  その先へ長い指が押し進もうとすると、悠翔は少々強めに体をよじって抵抗した。 「だめ?」 「だめだって。食事が冷える。それに……あんまり強くすると……中から漏れちゃう……から」  悠翔は真っ赤になって、ぽつりぽつりと言った。  璃空の頭は完全に覚醒し、脳裏に昨夜の痴態一切が思い出される。  最初はゴムをつけていた。コンビニで買っていったから間違いない。それがきれた。でも悠翔の肉厚なお尻と体幹の鍛え上げられた中があまりに気持ちよすぎた。悠翔にねだられた事もあって、結局生で注ぎ込んでしまった。何発かは覚えていない。 「ごめん! 飯はレンチンさせて!」  璃空はとっさにコンロを止めて、そのまま強引にバスルームに連れ込む。幼子にするように悠翔のスエットを脱がせると案の定彼は下に何も着ていなかった。  肉厚の雄っぱいには控えめな突起の周辺を中心に、寝ている最中にダニに刺されたのかと勘違いするほどの小さなうっ血の痕があちこちについている。誰がつけたのかなどは生唾を飲んで興奮にいきり立つ璃空の血走った目を見るまでもない。  悠翔は自分の体を眺めて恥ずかしそうに身もだえた。 「なんか……すごい、ね。朝起きて僕、びっくりしたよ。璃空君って、おっぱい、好きなの?」 「ううん! 尻!」  興奮で璃空の語彙が完全に言語能力を持ったただの犬並みになる。  昨夜もそんな状態であったであろう彼が、下半身の自分では見えない場所にどんな痕をつけたのか、悠翔は怖くて考えも及ばない。  ただ昨夜の疼きを双丘の谷間の奥が覚えていて、じんじんと熱を持ち始めていたので、抱きしめられるまま璃空のねっとりとしたキスを悠翔は素直に受け入れたのだった。

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