16 / 256
5
私のオタク趣味を、否定しない人。
そんな存在は、もう二度と現れないに違いない。
そう思いつめた健人は、思いきって美咲にプロポーズすることにしたのだ。
映画や食事、ライブや、お茶や、水族館。
デートは数回重ねたが、まだキスをしたこともない。
お付き合いの入口に立ったばかりなのに、プロポーズとは。
健人は確かにオタクだが、収集欲はさほど強くない人間だった。
高価なグッズに金銭を使うことがなかったため、貯金はきちんとできている。
女性が好きなブランドの、美しいデザインをしたダイヤモンドの指輪。
缶コーヒーを買う程度の気軽さで、健人はそれを手にしていた。
そして、プロポーズは見事に砕け散ったのだ。
「父さん、母さん。俺、辛いよ。とっても……」
仲の良かった、両親。
私も、あんな風に。
パートナーと、笑顔で人生を歩みたかっただけなのに。
健人の頭の中には、悲惨な失敗体験が生々しく渦巻いていた。
ともだちにシェアしよう!

