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「幸せになる、なんて抽象的だなぁ。それに私は今、すでに幸せなんだし」
「なぜですか?」
「だって、ほら。由宇くんが、ここに来てくれたから」
「えっ……」
今までクールに、ぺらぺら喋っていた由宇が、初めて言葉に詰まった。
そして戸惑ったように、もじもじし始めた。
「僕がいると、幸せ、なんですか? 健人さんは」
「とっても幸せだよ」
由宇の頬は、少し赤みが差したようにも見える。
本当に、ヒトそのもののようだ。
それを指摘すると、彼の不名誉になりそうだったので、健人はゆっくりとコーヒーを飲んだ。
由宇は少し時間をもらって落ち着いたのか、健人が再び顔を上げた時に声を掛けてきた。
「健人さんはまず、お金持ちになりましょう」
「えっ?」
「人間は普通、お金があれば幸せだ、と思いますよね」
「まぁ、そうかもね」
「お金持ちな健人さんの姿を、吉井 美咲に見せつけるんです」
意外に俗っぽい、由宇のアイデアだ。
しかし、その人間臭さが、健人には微笑ましかった。
何だか、楽しくなってきた。
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