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「だけど。お金持ちになる、っていっても。どうやって?」  あまりに漠然とした由宇の提案に、健人は頬杖をついた。  そんな健人に、由宇は涼しい顔で述べた。 「この国の今年度の国家予算が、112兆5717億円ですから、それくらいでどうですか?」 「……」 「足りませんか?」  さらりと言ってのけた由宇に、健人は苦笑いを引き攣らせて返した。 「ど、どこから、そんな大金を私の財布に?」 「僕が、銀行のオンラインシステムに、少しだけ手を加えます」 「そんなことが、できるのかい?」 「電子化の進んだ現代社会では、預金残高は数字を並べただけのもの。シンプルで簡単です」 「でも、それってハッキング? 犯罪だよ!」  絶対にバレませんから大丈夫です、と由宇は笑顔だ。  健人は、その笑顔にまたグラリときた。 (ヤバい。この笑顔を向けられると、何でも言うこときいちゃいそうだ)  そして、彼がグラグラしている間に、由宇はサクッと作業を終えてしまった。 「健人さんの現在の資産は、1,000兆円です」 「滅茶苦茶ずいぶん多くなってない!?」 「某国の国家予算が、約937兆円だったので。それに対抗してみました」 「まずいよ。絶対に、怪しまれるよ!」 「海外の銀行にも分散しましたし、不動産や美術品、貴金属類も含みますから」  だから、大丈夫です!  いっそもう、清々しい由宇の自信だ。 「解ったよ。じゃあ、やってみるか!」 「はい!」  健人はいつの間にか、少年時代のワクワクした気持ちを取り戻していた。

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