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第六章 扉が開く
健人が由宇に贈ったキスは、優しく、ソフトで、短いものだった。
しかし由宇は大きく瞳を見開き、自分の唇を指先でなぞっていた。
「これが……キス?」
「そうだよ」
応えた健人の声は穏やかだったが、少しかすれた。
由宇と同じく彼もまた、このキスに驚いていたのだ。
(由宇くんの唇、何て柔らかいんだ)
いや、柔らかさだけではない。
その皮膚の薄さ、肉の弾力、そして体温まで感じる。
とてもアンドロイドとは思えない、ヒトの唇そのものだ
久しぶりの口づけの心地よさは、健人の胸に小さな火をともした。
「由宇くん。私は……」
「もう一回、いいですか?」
「え?」
「もう一回、キスしてください!」
見開いた瞳をキラキラさせて、由宇がおねだりをしてくる。
健人の想いも同じだったので、二人は再び唇を重ねた。
今度は、少し長いキス。
健人が離れると、三回目は由宇の方から口づけてきた。
そんな甘い触れ合いを、二人は続けた。
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