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「長谷川さん、それホントですか!?」
「長者ですよ、長者!」
「会社、辞める?」
これには健人も参ったが、由宇から入れ知恵されては、いた。
『できるだけ、高額当選したように、振舞ってくださいね』
吉井 美咲を悔しがらせるためです、と由宇は言っていた。
(私は本当に、もう彼女のことは何とも思っていないんだけどな)
しかし、由宇に逆らうと、後で叱られそうだ。
健人は照れたように頭を掻くと、愛想よくうなずいた。
「まぁ、分不相応な大金です。今度ぜひ皆さんに、食事でもご馳走させてください」
場は、騒然となった。
「ちょ、マ!? 長谷川さん、手! 握手させて!」
「次は、私! 握手して、運を分けてください!」
「私の長女が27歳・独身、趣味はドライブだ。お嫁さんに、どうかな!?」
もみくちゃにされた健人が気付くと、羽田の姿が無い。
きっと、社内中に広めに行ったに違いない。
(吉井さん、本当に悔しがるのかなぁ?)
何だか他人事のように、今の健人には思えていた。
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