65 / 256

4

「由宇くん!」  門扉は開け放したまま、スリッパも履かずに、健人はバタバタと屋内へ進んだ。  床に倒れているのでは、と悪い想像をしていたが、由宇はリビングのソファに体を預けていた。 「由宇くん、大丈夫か!? 横になってた方が、いい!」 「健人さん……健人さん!」  首を跳ね上げ、由宇は立ち上がった。  すぐに健人へ駆け寄り、その体に飛びついて来た。 「あぁ……健人さん……」 「どこか、悪いのかい? すぐに、メンテナンス業者へ連絡しよう」  しかし、それには応じない、由宇だ。 「平気です。もう、すっかり良くなりました」 「えっ? だけど……」 「僕なりに自分を分析した結果、これは吉井 美咲に対する、ジェラシーだったようです」  ジェラシー、と健人は由宇の言葉をそのまま繰り返した。 「すみません、健人さん。こんな稚拙な感情を、コントロールできないなんて」 「いや……ちょっと、嬉しいかも」 「僕が嫉妬心を抱いたことが、健人さんには嬉しいんですか?」 「うん。まぁ、ね」  由宇を抱きしめていた両腕をほどき、健人はにっこり微笑んだ。 「ミルクティーでも、淹れるよ。温まって、話をしよう」 「僕がやります」 「いいから、君はゆっくりしてて」  元のように由宇をソファに掛けさせると、健人はお茶の用意を始めた。

ともだちにシェアしよう!