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 健人の意思表示に、美咲はぺろりと舌を出した。 「ごめんなさぁい。由宇くんは、アンドロイド、ね!」  大輝は、ゆるく首を振った。 「これは失敬。以後、言葉には気を付けますよ」  一応、謝って見せた二人だ。  健人はうなずくと、由宇の手を引いた。 「では、私たちはチェックインがありますので、これで」  美咲が何か言っていたが、その声は背中に聞いて、健人はその場から離れた。  大股で歩く健人に、由宇は不安になった。 「健人さん、怒ったんですか?」 「あぁ、由宇くん。ごめんね、不愉快だっただろう?」 「僕は、平気です。でも、さっきの言動は、健人さんらしくありません」 「私は……そうだな。怒りというより、憤りを感じたよ」  憤り、と由宇は手を引かれながら考えた。  この体に搭載されているAIに、その単語はある。 (憤り、とは。腹立たしいだけではなく、悲しみの感情も込められていることだ)  健人さんは、僕のために。 「怒りと悲しさを、感じてくれたんですね」 「うん。まぁ、そんなところ」  ヒト同士でさえ、差別し合って争っている世の中だ。  ましてや、人工物のアンドロイドは、ヒト以下に見られることの方が多い。 「由宇くんは、私が絶対に守るからね」 「健人さん……」  何気なく放たれた、美咲と大輝の言葉。  だが健人は、それに複雑な感情を抱いていた。

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